組織の中に必ず存在する「サボる人たち」
この人たちの心理状態はどうなっているのでしょうか。
この心理現象についての研究が存在します。
それが「リンゲルマン効果」です。
今回はサボる人間の心理状態について解説していきましょう。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今日はサボる人間の心理学として「リンゲルマン効果」をご紹介したいと思います。
リンゲルマン効果とは、共同作業をする人間が増えるほど、一人あたりの貢献度が低下する現象のことをいいます。
マックス・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann, フランス, 農業工学者)というフランス国立農業学校(フランス国立農学研究所)の教授は、1882年から1887年までの間、綱引きや石臼などの集団行動時における、一人あたりのパフォーマンスを数値化する実験を実施しました。
例えば綱引きの事例でいうと、100の力を持った人間が2人で協力して同じ方向に綱を引いたら、合計で200の力で綱を引ける計算になるはずです。
同様に3人で引っ張れば300になるはずですし、4人なら400になるはずです。
しかし、リンゲルマン教授の実験では、この想定とは異なる結果が出てしまいました。
具体的には、一人あたりの力を100%とした場合に、以下のような数値となりました。
この結果を見る限り、誰かが、もしくは複数の人間が完全にサボっていることがわかりますね。
これを、社会心理学では「社会的手抜き」といいます。
そして、このリンゲルマン教授の実験で初めて明らかになったことなので、通称「リンゲルマン効果(Ringelmann Effect)」と呼ばれています。
リンゲルマン効果の面白いポイントは、集団の数が多ければ多いほど、サボる度合いも大きくなるという点にあります。
ビジネスにおける事例でいうと、スタートアップと大手企業の事例が挙げられます。
創業間もないスタートアップの場合、まだ従業員数が少ないので、誰がサボっているかがすぐにわかります。
一方で、数千から数万の従業員がいる大手企業では、誰かが多少サボってもよくわからないというか、多くの人間がサボりまくっているので、あまり目につかなくなります。
そう考えると、リンゲルマン効果は私達の身近な場面でもよく起こっている現象です。
リンゲルマン効果の発生原因について考えてみましょう。
リンゲルマン教授の実験後、心理学分野ではこの効果に関する研究・実験が数多く実施されてきました。
その結果、リンゲルマン効果は、いくつかの原因があって発生していることがわかっています。
その主な原因のうち、重要なものは以下の2つです。
この2つは密接に繋がっているもので、リンゲルマン効果の防止策においても極めて重要な事項です。
以下、それぞれ簡単に解説いたします。
識別可能性とは、他者の仕事と自分の仕事を区別できる可能性のことです。
自分が行った仕事と他者が行った仕事を区別できる可能性がどの程度あるのかということです。
この識別可能性が下がれば下がるほど、自分の仕事と他者の仕事の線引きが曖昧になります。
言い換えると、誰がやったかわからなくなるのです。
その結果、サボってもバレないという状況が生まれ、わざわざ頑張るという気力が湧きづらくなります。
一方で、識別可能性が高ければ高いほど、自分の仕事と他者の仕事が明確に区別されますので、自分の仕事の出来不出来を他者に見られてしまいます。
その結果、頑張らざるを得ないという状況が生まれます。
評価可能性とは、他人から評価される可能性のことです。
評価可能性は識別可能性と密接に関連しており、識別可能性が上がると原則として評価可能性も上がります。
逆に、識別可能性が下がると、評価可能性も一般的には下がります。
そして、評価可能性が下がれば下がるほど、自分の仕事の結果を他人から評価されにくくなるため、サボってもバレない又は指摘されないという状況が生まれます。
そのような状況が続けば、基本的に人はサボります。
このように、上記2つの原因が複雑に関連しあって、リンゲルマン効果が発生しています。
続いてリンゲルマン効果の防止策について考えてみましょう。
今回は主な防止策として4つご紹介いたします。
以下、一つずつ説明します。
リンゲルマン効果が発生する原因の一つは、他者と自己のタスクが識別できない状況が存在している点にあります。
そうだとすれば、識別可能性を向上させればリンゲルマン効果の発生を防止できるはずです。
そして、識別可能性を上げる方法はいくつかありますが、すぐに実行可能なものとしては、タスクを細分化した上で担当者を決めるという方法が挙げられます。
そうすることで、誰がどんなタスクを何時間かけて処理したのかというのがわかります。
サボっている人や作業効率の悪い人が浮き彫りになる仕組みです。
このような状況を作り出してしまえば、よほどタフなメンタルを持っている人でもない限りは真面目に働きます。
リンゲルマン効果のもう一つの原因は、他人から評価される可能性が低い状態が発生してしまっていることでした。
そうだとすれば、評価可能性を向上させれば、リンゲルマン効果を防止できるはずです。
具体的な方法としては、評価ポイントを増やして行くことが考えられます。
意図的に評価する時点(ポイント)を増やして、常に誰かに評価されているという状況を作り出すことができれば、サボりにくくなっていきます。
続いて、ペナルティ制度の導入も効果的です。
リンゲルマン効果が発生してしまうと、それによってサボる人と努力する人の差が生まれてしまいます。
その結果、努力している人の側からすると大きな不公平感が生まれます。
それが続くと「優秀な人から辞めていく」という組織が出来上がってしまいます。
これを防止するためにも、サボっている人間にペナルティを与えなければなりません。
少なくとも放置は厳禁です。
サボっている人間にも他の社員と同等の給与を支払い続けるなんてあってはいけません。
しかし、日本企業の多くでは、明らかにサボっている人間にも一般社員と同等以上給与を支払っていることが多く、それによって本来やる気のある人間のモチベーションまで引き下げてしまっている会社が多いです。
私が過去に見た組織の一部でも、実質的に週に1日しか働いていない人間に、週6日働いている人間と同等の報酬を何年にも渡って支払い続けている会社がありました。
未だに理解できない経営手法ですが、実態としては数多く存在しています。
そのような理不尽を放置している限り、リンゲルマン効果は更に発生しますし悪化していきます。
最終的には業績に反映されていくことになるので、誰も得しない結果を産みます。
次に、監視システムの導入も効果的です。
この防止策は、従業員の数が多く、かつ、単純作業が多い業務に適した防止策です。
従業員の数が多いと、それだけ評価者の数も増やさないといけなくなるので非効率です。
また、単純作業が多いタスクの場合、結果を一括管理で評価した方が効率的です。
そのため、IT機器をフル活用して監視システムを導入してしまった方が費用対効果も高いでしょう。
このような監視システムは、多くの製造工場で既に導入されていて、AI等による検知システムが作動し続けています。
作業効率も可視化されますし、品質チェックも自動で行ってくれるので非常に高性能です。
そしてそのうち、作業員そのものも機械化されていくのでしょうね……。
ということで今回はサボる人間に焦点を当てたリンゲルマン効果について簡単にではありますが解説させていただきました。
組織運営の参考になれば幸いです。
ではまた次の記事でお会いしましょう。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。