本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、すでに一般用語として定着してきている「ビジネスモデル」について、簡単に解説させていただきます。
実はビジネスモデルという用語には、まだ正式な定義が存在しておりません。
なぜなら、学問的にはまだ生まれて間もない学問領域だからです。
経営学の世界でビジネスモデルに関する論文が頻出し始めたのは、2000年代に入ってからです。
日本では2005年以降かなと思います。
そのため、まだまだ学問としての歴史が浅く、論者が好き勝手に論じられる時期です。
現在までのところ、ビジネスモデルの定義について、学者先生方が長々しい定義をそれぞれ考えてつけてくれていますが、定番といえるようなレベルには達していません。
そんな中、素晴らしい着眼点でビジネスモデルを類型化してくれている教授が存在します。
それが、早稲田大学の根来龍之教授です。
根来先生の文章は非常にわかりやすい上に、読みやすいので、初学者にも適していると思います。
気になる方はAmazonで根来先生の名前で検索して、著書をいくつか読んでみてください。
さて、そんな根来先生は、ビジネスモデルを以下の3つの類型に分けて考えています。
以下、この3つをそれぞれ説明させていただきます。
なお、当該説明には私の解釈も入っていることを付言しておきます。
戦略モデルとは、どのような顧客に、どのような仕組みで、どのような魅力をつけて、どんな価値を提供するのかという一連の戦略を描いたものです。
私が思うに、ビジネスモデル論の中で戦略モデルが最も難易度が高い分野です。
戦略モデルを描くためには、様々な論点をクリアにしないといけないのですが、要素分解すると以下のものが代表例として挙げられます。
経営戦略を考えたことがある人なら、上記の論点がどれだけ深い論点なのかがわかると思います。
このような一朝一夕では答えが出ない論点を描いたものが戦略モデルです。
オペレーションモデルとは、上記の戦略モデルをどのようなオペレーションで実施するのかを描いたものです。
ここでいう「オペレーション」とは、業務プロセスのことを意味します。
例えば、とある商材を自社で直接販売(直販)するのか、誰かに代理店として販売してもらうのか(フランチャイズ等)などもオペレーションモデルに含まれます。
オペレーションモデルは、事業の全体像と会社の内実をすべて理解して描く必要があるので、突き詰めて考えていくと非常に細かい内容となります。
どの部署が、どのようなプロセスで仕入れを行うのか、開発する部署はどこで、どのようなプロセスで開発を行うのか、開発された商品をどのようなプロセスで販路に乗せるのか。
さらにはそれらのお金の流れをどのように経理に伝え、どう連携するのか、契約書の締結プロセスはどうするのか。
各プロセスの最終承認者は誰にするのか、承認した履歴を残すためのツールは何にするのかなど、非常に細かいマニュアルを描き出す必要があります。
また、オペレーションモデルは、仮に上手に描いたとしても、実行できなければただの絵に描いた餅なので、実際の実務に即したものを作らないといけません。
一方で、実務の利便性を重視しすぎると上場審査基準を満たさないことが多くなります。
それらのバランスを取って、現実的なオペレーションプロセスを描き出すのがオペレーションモデルです。
収益モデルとは、その事業に関するコスト構造と利益構造を描くモデルのことです。
例えば、最初にソフトウェアの開発費というコストを投入して、プロダクトのローンチ後(公開後)にユーザーから月額制でお金をもらうのであれば、サブスクリプションモデルというビジネスモデルを採用することになります。
また、あくまでも貢献が先で、利益は後だという理念を掲げるなら、成果報酬型やレベニューシェア(売上の何割かをもらう)型のビジネスモデルにすることもあります。
上記の例示を見てわかるとおり、世間的によく言われているビジネスモデルは、この収益モデルを意味することが多いです。
なお、収益モデルの描き方には、その事業の経営者の理念や価値観が反映されます。
顧客第一主義の経営者であれば、利益は後でもらうという構造にするでしょうし、自社の利益を優先したい人は、業務開始前の段階で着手金をもらったり、役務の提供の途中で分割してお金をもらったりして、取りっぱぐれないようなモデルにします。
別の視点でみれば、その会社の収益モデルを見れば、経営者の価値観を知ることができます。
顧客側は、その透けて見える価値観を誠実と感じるか、不誠実と感じるかを判断して会社を選ぶことができます。
そういう意味では、収益モデルを分析する能力は万人が持っておくべきものといえそうです。
上記3つがビジネスモデルの主要な類型で、一般的なビジネスマンが知っておくべき内容だと考えています。
そして、このビジネスモデルという知識をどう使うのか、という点についても述べていきます。
私が思うに、ビジネスモデルは主に以下の3用途で活用できると考えています。
一つずつ説明させていただきます。
まず、自社のビジネスモデル(戦略・オペレーション・収益)をよく分析し、弱点を探すという使い方ができます。
ビジネスモデルの素晴らしいところは、図や表で表すことができるという点にあります。
それを見ながら、自社の弱点を探っていくと、思いも寄らない発見があったりします。
また、自社より収益を上げている競合との違いを比較分析することにも使えます。
他社のビジネスモデルと比較して、自社の弱い部分を洗い出し、そこを改善すれば、より強いビジネスモデルを作ることが可能です。
ビジネスモデルは、事例研究として活用することもできます。
経営学の研究者ならば日々事例研究を行っていると思いますが、本来的にはすべてのビジネスマンが行わないといけないことです。
特に若手の頃は経験値が全く足らないわけですから、他社事例をよく研究して、ノウハウを脳内に貯めていかないといけません。
これを若い頃にやっているかどうかで30代以降からのビジネス理解力が全く違ってきます。
優秀なビジネスマンの多くは、意識的無意識的問わず、皆さん事例研究を相当多くこなしていらっしゃいますから、若手の皆さんもできる限り早い段階で事例研究を行っておきましょう。
なお、事例研究を行う場合は、コングロマリット型(いくつも事業を持っている型)の大手企業の分析をするのではなく、単一事業を行っているベンチャー企業などの分析をすることをおすすめいたします。
その方が、ビジネスモデルもシンプルで、理解しやすいです。
少し高度な使い方ですが、ビジネスモデルは投資判断に応用することもできます。
戦略モデル・オペレーションモデル・収益モデルをそれぞれ描いて分析をしていくと、そのビジネスのリスクもある程度わかってきます。
その結果、投資をするかどうかを判断する資料として使えます。
私はベンチャーキャピタルで働いた経験は無いのですが、おそらくベンチャーキャピタルの皆様も投資先候補に対するビジネスモデル分析はしているはずです。
ベンチャー投資は、上場株式投資とは比べ物にならないほど大きなリスクが伴うので、ビジネスモデル分析を行わないなんてことはありえないと思います。
ただし、創業前のシード期や創業間もないスタートアップ期ではビジネスモデル自体が確立されていないので、分析のしようがありません。
そのため、ビジネスモデル分析が投資判断で使える時期は、ある程度ビジネスモデルが確定した後からということになります。
ということで今回はビジネスでよく使われる「ビジネスモデル」という用語について、基礎的な概念をご説明させていただきました。
この記事を通してビジネスモデル論という興味深い学問領域について少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。
それでは本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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