本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は「コンティンジェンシー理論」と「SL理論」の2つをご紹介したいと思います。
この2つの理論は、マネジメントを学ぶ上でとても重要な理論です。
学問上も重要な理論となっていて、どこのMBAでも必ず触れる理論だろうと思います。
ただ、難易度が高い理論であるため、完全に理解するには時間がかかる理論といえるでしょう。
本記事では、極力平易な言葉でお伝えできればと思っておりますので、ぜひ最後までお付き合いください。
コンティンジェンシー理論とは、組織の状況によって適切なマネジメントスタイル、リーダーシップスタイルが異なるとする理論です。
別名「条件適用理論」と呼ばれています。
コンティンジェンシー理論の考え方を初めてリーダーシップ論に持ち込んだのはフィードラー(Fred Edward Fiedler)です。
フィードラーはLPCスケールという心理テストを開発して、リーダーを「仕事重視型(Task-motivated)」と「人間関係重視型(Relationship-motivated)」に分けて、状況に応じてどちらが好業績を出すかを研究していきました。
しかし、この心理テストの出来に対する批判やその他の批判が多く、通説にまでは至りませんでした。
その後、様々な研究を経て、ポールハーシー(Paul Hersey)とケン・ブランチャード(Ken Blanchard)がSL理論の提唱に至ります。
SL理論(Situational Leadership Theory)とは、コンティンジェンシー理論をより具体化した理論で、組織の状況に対応したリーダーシップ類型を提唱した理論です。
SL理論では、フォロワー(以下、単に「部下」といいます。)の成熟度に応じてリーダーシップスタイルを変化させるべきだという考え方をします。
そして、後述するように、4つのリーダーシップスタイルを提唱しています。
この理論が実務上立証されているかといわれると、まだそこまでは進んでいないのですが、少なくとも一部の実務家の納得感は得られているようで、未だに人気のある理論となっています。
若干難易度が高い内容ですが、一つずつ順を追って解説していこうと思います。
SL理論は、部下の成熟度によって類型を分けます。
ここでいう「成熟度」とは、仕事の成熟度(Job Maturity)と精神の成熟度(Psychological Maturity)の2つの意味があります。
まず、仕事の成熟度は、その仕事で必要となる知識や能力のことで、知識が豊富で能力が高いほど成熟度も高くなります。
一方で、精神の成熟度とは、仕事に対するモチベーション、やる気、意欲のことを意味します。
そして、仕事の成熟度の高低と精神の成熟度の高低で、以下の4つの類型に分けて考えます。
この部下の成熟度に応じて、リーダーシップスタイルを買えるべきというのがSL理論です。
では、どのようなリーダーシップスタイルを適用すれば良いのでしょうか。
リーダーシップスタイルの類型を見ていきましょう。
まず、SL理論では、リーダーの行動を以下の2種類に分けて考えています。
タスク行動は、リーダーが仕事や作業を重視した行動をする傾向を意味します。
リーダーによる明確な指示出しやタスクの処理方法の指定、進捗管理業務などが該当します。
一方で、人間関係行動は、リーダーが組織内の人間関係に配慮した行動をする傾向を意味します。
部下の相談に乗ってあげることや何らかの配慮のある行動などが該当します。
これら2つの行動傾向の高低で、SL理論では、リーダーシップスタイルを以下の4つの類型に分けて考えます。
この4つの類型を、部下の成熟度に合わせて使い分けるということです。
では続いて、先程ご説明したリーダーシップスタイルの各類型が、部下の成熟度とどう対応するのかについて解説していきましょう!
まずおさらいとして、リーダーシップスタイルには以下の4類型がありました。
そして、部下(部下)の成熟度の類型も、以下のとおり4類型存在します。
上記の部下の4類型それぞれに適合したリーダーシップスタイルを解説していきます。
この類型の部下は、仕事上の知識が豊富で、能力も高く、やる気もあって、モチベーションもしっかり管理できている人です。
そのため、自分で考え、自分で決定し、自分で成し遂げてくれる優秀な部下であるといえます。
このような部下に対しては、細かい指示出しや教育は必要ありません。
リーダーは部下を信頼して任せれば良いのです。
そのため「委任型」のリーダーシップスタイルが適しています。
委任型のリーダーシップスタイルは、タスク行動(低)✕ 人間関係行動(低)です。
仕事の指示出し・教示・やり方の共有など(タスク行動)は不要で、仕事のゴールさえ示しておけば足ります。
部下の成熟度がとても高いので、ゴールさえわかれば、あとは勝手に汲み取ってくれます。
さらに、部下のモチベーションを維持するために1on1をやったり、様々な雑談をしたりする(人間関係行動)必要もありません。
成熟度が高い部下の場合は、自分で自分のモチベーションを管理することができます。
リーダーは、必要とされたときに最低限の支援をすれば十分です。
ただ、実務を見ている限りでは、この「委任」や「見守り」がなかなかできないリーダーが多いです。
相手を信頼して任せるという行為には大きな「器」が必要なので、リーダーとしての器が備わっている人じゃないと他人を信頼することも任せることもできません。
部下のレベルが高いとリーダーの器そのものが試されるのです。
この類型の部下は、仕事上の知識が豊富で、能力も高いのですが、残念ながらやる気はありません。
やる気を失ってしまった理由は様々ですが、比較的多い部下の類型です。
この類型の部下には「参加型」のリーダーシップスタイルが適しています。
参加型のリーダーシップスタイルは、タスク行動(低)✕ 人間関係行動(高)です。
部下の知識や能力は十分なのですから、細かい指示出しや進捗管理は不要です。
そのため、タスク行動は低い状態で構いません。
一方で、モチベーションとやる気は低下している状態なので、人間関係行動は高い水準を維持する必要があります。
例えば、何か悩みを抱えていないか、不満を溜め込んでいないかについて、良好なコミュニケーションを通じて探っていかないといけません。
また、重要な意思決定に参画させて、自分の知識や能力を十分に発揮できる機会を提供してあげる必要もあります。
本人の能力が組織に必要とされているという実感を与えるのです。
これらの活動を通じて、少しずつ信頼関係を構築し、本人のモチベーションを高めてあげれば、徐々に部下の成熟度が高まっていくはずです。
しかし、これも実務上非常に難しいリーダーシップスタイルといえます。
そもそも部下は他人ですから、本人のプライベートな悩みまで聞き出すのは難しいでしょうし、原因が上司の人格そのものにあった場合、関係値を改善するのは難しいでしょう。
そのため、人間関係に興味がないリーダーには難しい手法だと思います。
この類型の部下は、仕事上の知識が足りず、能力も不十分です。
しかし、やる気はあります。
年齢が行き過ぎている人だとちょっと厳しいですが、若い人であれば将来に期待できます。
そういう部下には「説得型」のリーダーシップスタイルが適しています。
説得型のリーダーシップスタイルは、タスク行動(高)✕ 人間関係行動(高)です。
まず、まだ知識も経験も足りていないので、業務上の指示を具体的に示さないといけませんし、やり方の共有も必要です。
また、業務上行き詰まった場合はすぐに手を差し伸べ、手助けをしてあげないといけません。
そのため、タスク行動は高い水準を維持する必要があります。
その上で、モチベーションを維持するために、いろいろと相談に乗ってあげたり、悩みを聞いたりして、人間関係の良好さを維持しないといけません。
この類型の部下は、まだ経験が浅いので、自分のモチベーションを上手に管理できないからです。
したがって、人間関係行動も高い水準で必要です。
この類型の部下のマネジメントには、とにかく手間がかかります。
リーダーの時間を多く費やさないといけないので、ある程度愛情がないと難しいでしょう。
そのため、原則として素直な若手が部下だった場合に妥当するリーダーシップスタイルではないかと思います。
素直さがない人に対して手間暇をかけても無駄になる可能性が高いので、採用時に慎重にならないといけません。
この部下は、仕事上必要となる知識や能力が欠如していて、かつ、やる気もない部下です。
現実的な問題として、こういう人は多く存在します。
ベンチャーには比較的少ないですが、大きな会社や仕事自体にやりがいを見出しづらい職種、又は単純な作業の繰り返しを要求される職種などにはかなり多いです。
このような部下に対しては「教示型」のリーダーシップスタイルが妥当します。
このリーダーシップスタイルは、タスク行動(高)✕ 人間関係行動(低)です。
まず、業務の細かい指示を出す必要があります。
なぜなら、部下の知識・能力が全く足りていない状態だからです。
具体的かつ詳細に指示を出して、どのような結果を出さないといけないのかについてまで、正確に示さないといけません。
そもそも、この類型の部下はやる気も無い状態なので、自分で考えたり、工夫をしたりということをほとんどしません。
そのため、少しでもサボれる瞬間があればサボり始める傾向があります。
したがって、監視するくらいの感覚でタスクを細かく管理しないとすぐに業務が遅滞していきます。
そして、やる気がないからこそ、人間関係を良好に保つための活動自体にあまり効果がありません。
この類型の部下は、そもそもその仕事に興味がなく、生活のためにやっているだけの人が多いので、人間関係を良好にしようという努力そのものが無駄になることが多いと思います。
そのため、人間関係行動は低いままで構いません。
明確かつ事細かに指示を出し、あとはずっと監督していくというリーダーシップスタイルです。
イメージでいうと、体育会系組織の経営や単純作業が延々と続く工場の管理に似ています。
機械的に管理していくので、人間味はあまりない組織となります。
しかし、能力もモチベーションもない人材にはそうする他ないのだろうと思います。
では最後に、SL理論を簡単にまとめていきましょう!
まず、部下の類型は、その部下の成熟度に合わせて以下の4類型に分かれます。
次に、リーダーシップスタイルは、以下の4類型に分かれます。
リーダーシップスタイルを簡単に説明すると、以下のとおりとなります。
この4つのリーダーシップスタイルを部下の類型に応じて適用するのがSL理論です。
組み合わせとしては、以下のとおりです。
若干複雑な理論だとは思いますが、一応筋が通っていると思うので、知識として身につけておいて損はないと思います。
なお、SL理論では、部下の成熟度が高くなっていくにつれて、教示型→説得型→参加型→委任型の順番でリーダーシップスタイルを変化させるべきだという主張がなされているようですが、私はこの順番通りで変えていく必要はないかと思っています。
部下の成熟度は常に変化していくものなので、その変化に応じてリーダーシップスタイルも行ったり来たりするのが実務だと思います。
ということで、SL理論というマネジメントに関する重要理論について解説させていただきました。
実務での立証はまだできていない理論(批判も多い理論)なので、実際に使えるかどうかはわかりません。
ただ、比較的納得感のある理論だと思うので、SL理論を参考にして日々のマネジメントを行ってみると何か良い変化を起こせるかもしれません。
それではまた次の記事でお会いしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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