ビジネスにおける人間関係の問題の中で、一定の割合を占めるのが恋愛関係の問題です。
そして、心理学においては恋愛に関する研究も進んでおり、組織内での応用も検討されています。
組織内で起こる様々な問題へ対処するためにも、恋愛に関する心理学理論を抑えておくのも有益でしょう。
そこで今回は、恋愛スタイル類型論という理論を解説させていただこうと思います。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は少し変わった理論をご紹介します。
ビジネスマンとして長く活躍している皆さんにとっては比較的身近な論点だと思いますが、社内恋愛っていろいろありますよね。
もちろんそれで上手く行って結婚して、幸せになるというケースもあるのですが、実態としてはそうではないケースの方が多いように思います。
他人同士が感情的な関係を持つ以上、そこには様々な問題が起こり得ます。
当事者間だけの問題で済めば良いのですが、多くの場合、組織内の人間関係にも影響を与えてしまうものです。
そこで今回は、恋愛に関する問題に対処する助けとなるかもしれないという観点から、恋愛心理学分野の「恋愛スタイル類型論」について解説していきたいと思います。
なお、恋愛類型論の提唱者はJohn Alan Leeさん(社会学博士)です。
まず、恋愛類型論を学ぶ意義から考えていきましょう。
そもそもビジネスと恋愛は別個独立したものとして考えられています。
これ自体は正しい認識だと思いますし、極力感情面を排除した経営を行った方が合理的だとも思います。
しかし、私個人としては、企業内法務としてビジネスに関わっていく中で様々な問題に直面してきた結果、組織が人間同士の集団である以上、感情面の問題は切り離せないということを悟りました。
そして、その感情面の問題の中に、少なからず恋愛感情絡みの問題が存在するのです。
組織の中に異性(生物学上の異性に限らない)が存在する限り、そして、人が人である限り、恋愛から派生していく問題からは逃れられないのでしょう。
このような事態に対応するためにも、マネジメント層も恋愛についてある程度学んでおく必要があると考えています。
今回扱う恋愛類型論を学んで、それに派生して発生し得る可能性の高い問題についても把握しておきましょう。
恋愛スタイル類型論の原典では、全ての類型がギリシャ語かルーマニア語(だと思う)で呼称されていて覚えにくかったので、今回は他の文献も見た上で、日本語の類型名で解説させていただこうと思います。
原典が気になる方はJohn Alan Leeさんの著書「the colors of love」(1973年英語版)をお読みください。
恋愛スタイル類型論で類型化されているのは、以下の6類型です。
一つずつ解説していきましょう!
原典では “Ludus”(ルダス)となっているこの類型は、日本語でいうとゲーム型の恋愛です。
恋愛をゲームの駆け引きのように楽しむ類型で、恋愛を遊びの一種として捉えています。
そのため、複数人と同時に付き合うことも当然にあり、個別の人間への執着・独占欲などをあまり見せません。
相手に深く関わることもせず、自分自身のプライベート領域への干渉もさせません。
常に相手と距離を保ち、楽しむことを重視する類型です。
もしかしたら日本では嫌われるタイプの恋愛スタイルかもしれませんが、実態としては非常に多く目にする恋愛の類型だと思います。
身近な事例だけでもパッと思いつく事例が1つ……2つ……3つ……もうやめておこう。
次に、実用型という類型があります。
この類型は、原典では “Pragma”(プラグマ)と呼ばれていて、恋愛を自身のために利用するタイプです。
より具体的にいうと、その人と付き合うことで自分の社会的地位が向上するかどうか、という視点で恋愛の対象を選定します。
相手の年収、身長、ルックス、社会的地位、出自などを総合的に考慮し、自身と釣り合っているのか、自分の地位を向上させるために活用できるかなどの視点で選んでいきます。
この事例も非常に多く目にします。
あまり感情に流されることなく、打算的かつ計画的な恋愛をするタイプです。
言葉で説明すると若干ヤバい人のように見えますが、付き合う異性が自分を成長させてくれるかという視点は少なからず持っておいた方が良いと思います。
続いて友情型は、原典では “Storge”(ストルゲ)となっています。
この類型は、長い時間をかけて、友情と同じような感覚で愛情を育んでいくタイプです。
子供が友達と出会い、少しずつ仲良くなっていくようにゆっくりと、穏やかに信頼関係を構築していこうとします。
そのため、恋愛の相手に対して仲間意識を持っており、深い干渉や束縛などはしません。
この類型は、私が知る限りでは、最も上手く行っているカップルが多い類型でもあります。
友情型の人たちの多くは、配偶者と本当に良い関係性を築いていて、長期的な関係を形成しています。
次に奉仕型は、原典では “Agape”(アガペ)となっていて、常に相手のために尽くすタイプの恋愛スタイルです。
この類型の人たちは、恋愛の相手方の利益を第一に考えるので、相手のためなら自己犠牲すら厭わないという考え方を持っています。
そして、この類型の素晴らしいところは、自分の行った奉仕活動に対する「見返りを求めない」という点にあります。
言い換えると、何らかの見返りを求めているようなタイプはこの類型ではありません。
ただし、この類型は原典及び他の論文でも「本当に存在するか怪しい」という結論に至っています。
たしかに、一時的な状態であれば、この類型に属するということも可能だと思いますが、人間というものは常に変化し続けるものなので、一生涯に渡ってこのスタイルを貫き通せるかどうかは怪しいところだと思います。
続いて、外見型についてですが、こちらは原典では “Eros”(エロス)となっています。
この類型は、相手の見た目やルックスを重視した恋愛スタイルです。
恋愛をとても崇高なものと捉えていて、強烈な一目惚れなどを起こすタイプです。
いわゆる恋愛脳というか、ロマンチストというか、そういうタイプです。
個人的には一番理解に苦しむ類型で、良い事例が思い浮かばないのですが、よく考えてみると中学生から大学生ぐらいのときに罹患する厨二病に近いものかもしれないと思い、それで少し理解が進みました。
この類型の人は、恋愛に関する「運命」とか「直感」とか「電撃が走る」などの言葉が大好きで、常に恋愛という夢を見ています。
恋愛系の少女漫画やラブロマンス映画が大好きで、自分をその主人公と重ねるという習慣があるのだろうと思います。
情熱的で瞬間的な恋愛をするタイプなので、マジで恋する5秒前の状態が常に続いているような感じです。
最後に偏執型は、原典では “Mania”(マニア)となっています。
この類型は、相手に狂気的なまでの執着(こだわりや依存)を見せるタイプです。
独占欲・支配欲が極めて強く、相手に何度も何度も自分への愛情を確認します。
皆さんお気づきのとおり、この類型がヤバい人です。
この恋愛類型の人は、恋愛において強烈な感情の起伏が伴うので、それはもう……(これ以上は言うまい)
ということで、リーさんが提唱する恋愛の類型は、以上6類型となっています。
では、各類型でどのような問題が起こりうるのか。
その点について考えてみましょう。
それでは、上記で説明した各6類型について、それぞれ起こり得る問題を考察していきたいと思います。
ただ、あくまでも私的な考察で、予想の範囲を超えることはありませんので、その点だけはご了承ください。
社内で発生する恋愛絡みの問題の多くはこの類型が起こしているのではないかと思ってしまうほど、結構よく問題を起こす類型です。
私が見聞きした過去の例でいうと以下のような問題がありました。
社外でどのような生活をしていても構わないのですが、ゲーム型の場合は社内でも問題を起こすことが多いので少し注意が必要となる類型です。
そして、元々複数の人と同時に恋愛をすることを悪いことだと思っていない類型であるため、良くも悪くもオープンな性格をしています。
それゆえに、不倫や浮気がすぐにバレることが多く、組織内の倫理観が汚染されることがあります。
対策としては、本人と直接話して倫理観を改めてもらうしかないですが、上司としてはなかなか注意しづらい論点でもあるので手を焼くと思います。
実用型が表立って問題を起こすことはあまりありません。
少なくとも私はほとんど見たことがないです。
過去にあった事例としては、恋愛対象の乗り換え時の揉め事と、略奪愛関係の不倫が各1件あったくらいで、他は特に事例を思い出せないので、比較的健全な類型かと思います。
そもそも実用型の人は、自分にとって不利になる行動をすることが少ない上に、相手を心から愛しているわけではないので、恋愛感情の問題が起こりにくい類型だと考えられます。
友情型については、全類型の中で最も健全な類型であるため、少なくとも私はこの類型が問題を起こしている事例を見たことがありません。
ただ、健全な価値観の持ち主だからこそ、騙される側に回ることはよくあるので、被害者にはなりやすいタイプだろうと思います。
というのも、この類型に属する人は人を信じるということに対して美徳を感じる傾向があるように思われるため、基本的に他人を信頼しようと努力します。
その結果、標的にされやすい傾向があるので、各人及び周りの友人達が注意して、事件や問題に巻き込まれないようにしておかないといけません。
上述のとおり、この類型自体の存在可能性が低いため、除外しても問題無いだろうと思います。
仮に出現したとしても、問題を起こす事はあまり考え難いです。
この類型は、基本的には脳内で夢を見ているだけなので実害はありません。
しかし、社内で燃え上がっちゃった場合は注意が必要です。
この類型は一度導火線に火がついてしまうと、爆発するまで突っ走らないと気が済まないという感じの人が多いため、勝手に一人で盛り上がって暴走してしまうことがあります。
それを面白がって周りの同僚たちが告白を煽ったりするため、事態はよりややこしくなりやすいです。
その結果、組織内の人間関係トラブルが発生してしまうことがあるので、冷静さを保たせるように諭す必要があると思います。
最後に、最も危険性が高い類型の話をしていこうと思います。
私の過去の実体験としても、この類型が起こす問題が最も危険度が高いと思っています。
かなり前の話ですが、私が過去に関わった問題の中で最も厄介だったのがこの類型が起こした問題でした。
その時は被害者側が私の知り合いで、加害者側がこの偏執型と思われる人でした。
加害者の男性は、恋愛の相手を異常なまでに束縛し、独占しようとする人で、仕事がない日はほぼ軟禁状態だったようです。
それでも数年間耐え忍んだそうですが、遂に限界が来て、法的に対処しなければならなくなった事例でした。
これがもし自社の従業員が加害者側だったらと考えると、かなり恐ろしいことです。
従業員すべての恋愛類型を把握することは困難ですし、そういう調査をするべきではないのですが、マネジメント側としては頭の中にこういった類型論を入れておいて、将来起こりうるリスクを予見するツールの一つとして活用してみるべきだとは思っています。
採用段階で危ないなと思ったら、勇気を持ってお見送りするというのも重要な仕事です。
ということで今回は恋愛スタイル類型論のご紹介と、それに関連して発生し得る問題について考察をしてみました。
本来、経営と恋愛は別個独立した問題だと思いますが、対人関係トラブルや組織内の問題の根本には恋愛の問題が隠れていることも多いです。
だからこそ、マネジメント側としては恋愛に関する知識もある程度勉強しておかないといけません。
そのような事例が発生したときに、今回のような類型論を知っておけば、そこから発生しうる問題をある程度予見することも可能です。
この記事がその来るべき時にお役に立てば幸いです。
では、また次回。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。