組織心理学の理論の中でもかなり重要度の高い「組織コミットメント」ですが、その内容を知っている人は少数派です。
そこで今回は、この組織コミットメントについて、詳しく解説していこうと思います。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回ご紹介する「組織コミットメント」は、組織の結束力及び従業員のモチベーション向上に貢献する理論です。
少し難易度の高い理論ではございますが、できる限りわかり易く解説していこうと思います。
組織コミットメントの定義については、様々な心理学者が独自の定義を持ち出していて、まだ正式に確定したものはなさそうです。
ただ、共通して言えるところを抜き出すと、以下のような定義になるかなと思います。
組織コミットメント(Organizational Commitment)とは、個人が自己の所属する組織に対して抱く帰属意識の程度のことをいう。
言い換えると、どれだけ自分の組織に愛着や所属意欲を持っているかの度合いのことです。
例えば、慶應義塾大学や中央大学の卒業生の皆さんは、自己が所属した大学に対するポジティブな愛着を強く持っている人が多いです。
このような状態は、組織コミットメントが高いと表現します。
同様に、自社に対する愛着持っている従業員が多い場合は、その組織の組織コミットメントは高いといえます。
一方で、ポジティブな愛着以外の帰属意識でも組織コミットメントは高くなります。
例えば、他に行くところがないから仕方なくその会社で働き続けている場合などが該当します。
いずれにしても、組織コミットメントが高ければ高いほど、組織への帰属意識が高いので、同じ組織に長く存続し続ける、もしくは存続し続けたいと本人が思うという効果を生むと考えられています。
では、どのような要素が高くなれば、組織コミットメントが高まるのでしょうか。
この点について、様々な学者が提唱する様々な要素のうち、実務で活用できそうな要素を抜き出すと以下のとおりです。
もちろんこれだけで組織コミットメントが測れるというわけではありますが、組織コミットメントの高低に影響を与える要素の一部として、それぞれ解説していきたいと思います。
今現在所属している組織の他のメンバーに対する満足度が高ければ高いほど、組織コミットメントは上昇します。
ただし、人によって満足度の構成要素が異なりますので、どのような要素が揃えば満足度が上昇するのかは定義しづらいところがあります。
これを違う視点から見ると、会社側である程度満足度の要素を調整することができるということでもあります。
例えば、社内に学力が高い人で、かつ、学力が高い人と働くことが好きな人ばかりを揃えることで、意図的に仲間への満足度を向上させることができます。
ここは採用戦略に関わることなので、できれば創業初期段階から徹底して管理した方が良いポイントです。
CEOは、創業初期段階において、自分がどのような人を好むのかについてできる限り言語化しておくべきです。
それを怠ってしまうと、社内文化の根底にある価値観がバラバラになりやすくなり、組織コミットメントが下がる可能性が高くなります。
会社が掲げるビジョンへの共感度が高ければ高いほど、帰属意識が強まり、組織コミットメントが高まると考えられます。
一部の例外を除いて、人間というものは自分で立てた目標のためなら頑張ることができます。
そして、会社のビジョンへの共感度が高いと、そのビジョンが「自分のやりたいこと」そのものになるので、通常要求される従業員としての活動を超えて、組織に貢献すべく自ら進んで何らかの活動を行おうとするインセンティブが働きます。
その結果、組織に対する愛着が強くなりますし、帰属意識も高くなります。
この効果を十分に享受するためにも、会社側としてはミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の制定に力を入れるべきだと思います。
特に規模が小さいベンチャー企業においては、大手企業と採用競争をする際にMVVが唯一と言ってもいいほどの武器になるため、時間と労力を惜しまずかけるべき事項です。
職務への満足度も組織コミットメントを上昇させる要素の一つです。
自分の職務に対して誇りを持って取り組んでいる人は、自己の職務に満足しているため、その職を離れたいとは思わないはずです。
その結果、組織への帰属意識が高くなります。
そして、どのような要素があればその職務に満足するのかについては人によるので、こちらも会社側が予めよく検討しておかないといけないポイントです。
例えば、報酬という要素に過度に執着する人(報酬が高ければ職務満足度が上がる人)ばかりを集めてしまうと、お金のために仕事をする人が増えてしまいます。
それ自体は悪いことではないのですが、お金という要素はそこまで強いモチベーションを起こさせるものではないので、長い目で見ると組織コミットメントを引き下げる結果を招くおそれがあります。
会社として、どのような要素を重視する人材がほしいのかについて、一度深く考えてみることが重要です。
おすすめとしては、優秀な仲間と働くことが喜びだと感じる人を多く集めることです。
そういう人が多く所属する組織は、結束力が強固になりやすいです。
前述のとおり、報酬という要素はあまり長続きしない要素ではあるのですが、報酬満足度も大事な要素であることは事実です。
自分の報酬額に対して満足している人は、わざわざ転職というリスクを冒しません。
そのため、報酬満足度が高いほど、組織コミットメントも高くなる傾向があると考えられます。
ただ、前述のとおり、報酬満足度が高いことが組織にとっては逆効果を生むことがあります。
というのも、報酬に対する執着が強い人というのは、報酬をもらうために様々な努力をするため、その努力の方向が時々マイナスの結果をもたらしてしまうのです。
例えば、一日8時間労働で月給80万円もらっている人が、多少サボることで一日6時間労働にすることができたとします。
それでも月給は変わらず80万円もらえるわけです。
そうなると、次回以降からは「どうやって上手にサボるか」という点に執着し始めます。
このような人間が多くなると、組織は徐々に衰退していきます。
そのため、会社として組織コミットメントの向上のために、報酬満足度だけに頼るというのはあまりオススメできません。
経験満足度も組織コミットメントの重要な要素の一つです。
その組織に所属することで得られる経験に対する満足度が高ければ高いほど、組織に所属し続ける意欲が高まるので、組織コミットメントも高まります。
この要素は、若い専門職にとって特に重要な要素ではないかと思います。
専門職にとって、最も得づらいものの代表格が「経験」です。
原則として、大学進学と就活に勝利した人しか良い経験が得られない構造になっているため、従業員側はその会社でどのような経験が得られるのかという点についてかなりシビアに見ています。
優秀な人材であればあるほど、今後数年間の経験に対する欲求が強いです。
そのため、会社側としては、自社の業務の中にどれほど貴重な経験が含まれているのかについて、一度洗い出しをしておいた方が良いと思います。
それ自体が優秀な人材を惹きつける魅力になり得ます。
ここまでは比較的ポジティブな要素の話でしたが、この要素は若干ネガティブ要素を含んでいます。
この要素は、組織から離れる場合(離職する場合など)に、その個人が支払わないといけなくなる損失・犠牲の総額がどの程度なのかという要素です。
損失・犠牲が大きければ大きいほど、その組織に留まる理由になりますので、組織コミットメントが上昇します。
損失・犠牲の例としては、以下のようなものが挙げられます。
などが該当します。
これらのマイナス要素(損失)の総量が大きれば大きいほど「転職は一旦やめて今の会社で働こう」といういわば消極的なインセンティブが働き、組織コミットメントが高まります。
会社にとってはあまり好ましくない組織コミットメントです。
最後に、過去の投資の総量が多ければ多いほど組織コミットメントが高まるという考え方があります。
いわゆるサンクコストの考え方だと思いますが、一理あると思うのでご紹介しておきます。
例えば、その会社に入るために懸命な努力をして、筆記試験や面接試験を乗り越え、極めて低い確率を突破して就職できたようなケースでは、過去に相当な投資(試験による精神的負荷や勉強した労力など)を行っているので組織コミットメントが高くなります。
超大手の上場企業や就活難易度の高い企業でよく起こる現象です。
これを逆手に取るのであれば、就活や転職時の面談回数や試験回数を増やして、あたかも難易度が高い職場のように振る舞うことで組織コミットメントを高めるという方法もあり得ます。
ただ一方で、そこまでして入る価値はないと判断されることも多くなるので、一長一短ある方法です。
以上7要素を解説させていただきましたが、再度まとめておきます。
組織コミットメントを高めると考えられている要素一覧
次に、組織コミットメントが高くなるとどのような効果が得られるのでしょうか。
この点について簡単に解説させていただきます。
組織コミットメントが高まると、一般的には以下のような効果があるといわれています。
以下、一つずつ説明いたします。
まず挙げられるのは、組織コミットメントの高い従業員のパフォーマンスの向上です。
その組織に対する帰属意識が高ければ高いほど、その組織に残りたい、貢献したいと考えることが多いので、そのためにも組織のためにがんばろうというモチベーションが上がりやすくなります。
しかし、上述のとおり、組織コミットメントの要素の中にはネガティブな要素もあるため、そのネガティブな要素が高い人については、パフォーマンスの向上は見込めないと思ってもらって良いかと思います。
ポジティブな要素が高いことで組織コミットメントが上がっている人員にだけ妥当する効果といえそうです。
次に、組織コミットメントが上昇すると、組織への帰属意識が強くなるため、総じて離職率が低下する傾向があります。
これはポジティブな要素での組織コミットメントの上昇においても、ネガティブ要素による組織コミットメントの上昇においても同様です。
会社側の視点でみると、ポジティブな要素に基づいた組織コミットメントの上昇で離職率が低下するのは望ましいことです。
優秀な人材が長くとどまってくれるのはプラスのことばかりでしょう。
一方で、ネガティブな要素によって組織コミットメントが上昇している人が長く残ってしまうのはデメリットの方が多いかもしれません。
このあたりについては、どの要素で組織コミットメントが上昇しているのかについて、会社側も慎重に分析しないといけません。
最後に、組織コミットメントが向上すると、一般的には組織効率が向上するといわれています。
組織効率とは、少ないコストでより多くの利益を出す組織のことをいいます。
組織コミットメントが向上すると、通常は、その組織への帰属意識が増します。
その結果、その組織のために働こうとする人が増加するので、組織全体として生産性が向上する(パフォーマンスが向上する)という理屈です。
(1)で解説した従業員のパフォーマンスの向上の相乗効果だと思ってください。
しかし、こちらについても、ネガティブな要素に基づいて組織コミットメントが上昇している人については発生し辛い効果です。
むしろ、そういう人たちが増えることで組織効率は低下すると考えられます。
ということで今日は「組織コミットメント」について解説させていただきました。
若干複雑な理論で、要素によって良い効果が出たり、悪い効果が出たりするのですが、いずれにしても知っておいて損はないと思いますので、ぜひご活用ください。
ではまた書きます。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。