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2024/10/26 更新

人事評価で気をつけたい認知バイアス(中心化傾向 寛大化傾向 厳格化傾向)

年に最低1回は訪れる憂鬱な時期、それが人事評価です。

人事評価の場面では認知バイアスが多く発生し、評価を歪めてしまいます。

このような現象を発生させないためにも、人事評価でよく起こる認知バイアスについて理解を深めましょう。

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今回は人事考課の場面でよく発生する認知バイアスについてご紹介していきます。

1.中心化傾向・寛大化傾向・厳格化傾向とは

人事考課の場面では、様々な認知バイアスが発生してしまいます。
それは、人間が人間を主観的に評価せざるを得ない部分があるためで、多かれ少なかれどうしても発生してしまうものです。
しかし、どのような認知バイアスが発生しやすいのかについて知っていれば、自己のバイアスを自覚することができるため、若干ではありますが、抑制することも可能になります。
そのため、以下の3つの認知バイアスをまずは抑えておきましょう。

まず発生しやすい傾向として、中心化傾向が挙げられます。
中心化傾向とは、段階的な尺度(例えば5段階評価)を用いた評価テストを行った場合に、真ん中あたりの評価に偏ってしまう現象のことをいいます。

自己の部下について、本当はあまり優秀ではないと思っている場合でも、可もなく不可もなしの真ん中くらいの評価にしてしまったり、逆にとても優秀だと思っているけど、調子に乗らせたくないからという理由で真ん中くらいの評価を付けてしまったりするあれです。
人事評価でよく起こっている現象です。

次に、寛大化傾向も頻繁に発生しています。
寛大化傾向とは、実際の優劣とは関係なく、評価が甘くなってしまい、高い評価を与えてしまうという現象のことをいいます。

やはり管理職も人間ですから、自分の部下はかわいいと感じてしまうものです。
特に懐いてくれている部下については尚更です。
そのような場面では、寛大化傾向が発生しやすく、客観的に見ると大して優秀でもないのに、人事評価だけは高いという結果が発生しやすくなります。

最後に、寛大化傾向の逆の現象である厳格化傾向も発生しやすいです。
厳格化傾向とは、必要以上に厳しい評価をつけてしまう現象のことです。

人間は感情の動物ですから、好き嫌いが評価に影響してしまうものです。
そのため、嫌いな人に対する評価については特に厳格化傾向が発生しやすくなります。

いずれの現象も、人間の認知バイアスの一種で、評価者が評価対象を正しく評価できていないという点では共通しています。
このような現象が人事考課の場面ではかなり頻繁に発生していて、それが従業員の給与に反映されてしまう結果、適正な給与額から乖離していってしまうことになります。
これは従業員にとっても会社にとっても良くないことで、長期的な目線で考えると、離職率の向上や従業員のモチベーション低下、無能な管理職の輩出など様々な問題を誘発させます。

2.発生原因と対応策

上記の認知バイアスが生じる原因としては、一般的に以下のようなものが挙げられています。

  1. 人事考課に対する無関心
  2. 人間関係悪化に対する不安
  3. 評価基準が曖昧
  4. 評価能力に対する過信・誤解

上記の4つの原因は、単体で発生するものではなく、多くの場合は複数併発的に発生しています。
以下では、それぞれの原因について簡単に解説したあと、それに対する対応策を考えてみたいと思います。

(1)人事考課に対する無関心

私が見てきた事例でいうと、最も多い原因が無関心にあると考えています。
マネージャーの立場にいる人達の多くが、人事考課の重要性や趣旨に対してあまり興味を持っていないのです。

他人の給与・待遇なんかどうでもいいという価値観を心の奥底で持っていて、無難にテキトーな理由をつけて文句を言われない程度の評価をつける(中心化傾向又は寛大化傾向)というやり方をするわけです。
これが続いた場合、被評価者である従業員は会社のために努力をすることがアホらしくなっていきます。
最終的に離職率の向上やモチベーションの低下を引き起こします。
更に進むと上司の顔色を伺うだけのヒラメ社員(上だけを見ている社員)を量産してしまうため、会社にとっては何一つメリットがありません。

この原因への対処法は一つだけです。
人事考課に無関心な人間をマネージャーにしないことです。

そもそも人事考課に無関心な人間は、マネージャーには不適格といえます。
しかし、実際にはそのような人間がマネージャーを務めていることはかなり多くあります。
その結果、徐々に優秀な人材から辞めていく組織が形成されていきます。

このような状況を従業員側の立場で考えた場合、運悪くそのような上司に当たってしまったときには、速やかに異動願いを出すか、転職を検討した方が良いでしょう。
というのも、人事考課の重要性を認識していない上司の下で働いても、従業員側のキャリアにはほとんどメリットが無いからです。

なお、優れた経営者が率いている会社は、大抵の場合人事考課の重要性をよく理解しているので、そもそも人事評価すらまともにできない人にマネジメント業務を任せたりしません。
また恣意的な評価が入らないように、必ず複数の評価者を置きます。
転職をする際には、その会社の人事考課制度がどのような仕組みになっていて、誰がどのように評価を行うのかについてきちんと確認しておきましょう。

(2)人間関係悪化に対する不安

次に多い原因として、人間関係悪化に対する不安があります。
日本は人間関係を重んじる文化があるので、他人を悪く評価すること、又は他人に悪く評価されることを嫌う傾向がかなり強いです。
その結果、寛大化傾向が発生しやすいですし、現実の能力が不足している場合でも過度な悪評価をつけずに真ん中くらいの評価で抑えようとします(中心化傾向)。

このような現象に対する対応策は、信頼関係の構築以外にないと思います。
上司と部下が、互いに本音で意見を言い合えるような関係性を構築していくしかありません。
もちろんネガティブな評価をするときは、言葉選びに細心の注意を払う必要がありますが、最終的には本音で語り合えるような関係を構築するのが理想です。
それができるかどうかが、マネージャーとしての力量そのものといえます。

(3)評価基準が曖昧

日本の評価基準は数値化できない印象評価のような項目が多いので、それによって中心化傾向・寛大化傾向を誘発してしまっていることがあります。
評価項目に人の主観的な評価が入る項目が多ければ多いほどバイアスが発生しやすい構造が生まれてしまうので、これを防ぐためには徹底した数値化・客観化しかありません。
評価基準を誰が見ても明らかといえるほどに数値化・客観化して、それに基づいて評価を行うという方法にすれば、中心化傾向・寛大化傾向は起こりづらくなります。

ただし、これをやりすぎると、一部の従業員が「数値を上げること」だけに囚われて、数値向上に繋がらない業務については一切協力しないという文化が形成されることがあります。
この点には別途注意が必要です。

(4)評価能力に対する過信・誤解

最後に厳格化傾向の原因として、比較的多いものについて解説していきます。
厳格化傾向は不必要に厳しい評価をつける傾向なのですが、実務での経験上、この傾向は評価者側の過信や誤解によって生じることが多いと感じています。

例えば、評価者側が自己の評価能力に対して過大に認識していたり、評価する側の方が偉いのだと誤解していたりすることで、厳格化傾向が発生するケースです。
つまり、被評価者のための評価ではなく、単に評価者側の自己満足や権威を誇示するために人事評価がなされてしまっているような状況です。
誠に残念なことではありますが、非常によく発生しています。

年齢に関係なく出世というものは嬉しいもので、自分が組織の管理職として任命されたことを誇らしく感じます。
しかし、それは権利の濫用を認める趣旨ではありません。
むしろ、より厳格な自己管理と自己研鑽に努めるべき立場になったに過ぎません。
これを勘違いして、自分が他人を評価する側に立っている、自分が評価基準そのものであると考えてしまう人は少なからず存在します。
最悪のケースでは、自己の評価権を脅しの道具として使用することもあります。
自分の言うことを聞かないと評価を低くするぞと脅すことで、部下を従わせようとする悲しい現象です。

今でこそパワハラの一種として認められるようになってきていますが、昔はどこの会社でも発生していたことです。
このような現象を発生させないようにするためには、やはり適切な人材を管理職に任命するしかありません。

自己の能力に対する過信が大きい人や勘違いをしやすい人をマネージャーに任命してしまうと、厳格化傾向が強く発生してしまいやすくなります。
そのような状態を放置していると、若手の早期離職を招いてしまうため、会社側としては注意を払う必要があります。

おわりに

ということで今回は、人事考課の場面でよく発生する認知バイアスについて簡単に解説させていただきました。
どのバイアスも多少は発生してしまうものですが、その原因がある程度わかっていれば、未然抑えることは可能です。
組織開発を担当している皆さんは、ぜひ認知バイアスに気を配って良い人事考課制度を構築してくださいませ。

ではまた次回。

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瀧田桜司

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