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コラム
2024/09/06 更新

経営管理部門の役割と採用の難しさについて解説します

ベンチャー企業やスタートアップがIPOを目指すとき、必ず設置することになるのが「経営管理部門」です。

管理部又はコーポレート本部などとも呼ばれるこの部署について、どのような役割を持っていて、どういう部署が存在するのか、そして各部署の管理職を採用することの難しさについて解説していきます。

はじめに

私が考えるベンチャーの一般的な組織構造は、経営陣・経営管理部・事業部の3つの組織で成り立っています。
そして、前回は経営陣に該当する「CxO」の種類と役割について解説させていただいたので、今回は「経営管理部」という重要な部署について簡単に解説させていただきます。

1.経営管理部とは?

経営管理部とは、経理・財務・法務などの専門職が主に集まる部署で、最近ではより広く事務方の職種の総称、つまりは間接部門の総称として使われている言葉です。

なお、間接部門とは、利益に間接的に貢献する部署のことをいいます。
逆に、利益に直接的に貢献する部署は「直接部門」といいます。

この直接部門の代表格は営業部です。
営業部では、営業部隊が直接外部と折衝して、契約を獲得し、売上を上げます。
営業部がいないと売上も利益も上がらないので、経営上最も重要な部署と言って良いかと思います。

一方で、間接部門の代表格は経理や財務です。
経理財務は、直接的には利益に貢献しませんが、日々の経理業務や資金繰り業務で会社の利益に間接的に貢献しています。
こういった間接的な業務が滞ると、会社は機能不全を起こしてしまい、下手をすると潰れてしまいます。
そのため、直接部門と間接部門は経営上、車の両輪のような関係といえます。

そしてこの間接部門の総称である「経営管理部」は、他にも「管理部」「バックオフィス」「コーポレート本部」などと呼ばれることもあります。
会社によって名称は様々ですが、機能はほぼ同一です。

本記事では「経営管理部」に統一させていただきます。

2.経営管理部の役割

経営管理部の役割は、事業部の営業活動を支えることです。

極論をしてしまえば、経営管理部は、事業部の雑務・事務の大半ないしは全部を引き受ける部署であるべきです。
そのため、経営管理部の仕事の範囲は極めて広く、制限も特にありません。
事業部に貢献しうることはすべて経営管理部門の仕事になり得ると考えて良いかと思います。
そのくらいの認識でいた方が実態に沿うでしょう。

私は、若い頃の営業職としての経験が長いので、尚更そう思うのかもしれませんが、経営管理部門は、常に事業部の利益を考えるべきで、事業部の業務量を減らせることなら何でも協力すべきだと考えています。
それが経営管理部門の役割ですし、使命です。

それに、経営管理部のメンバーが優秀だと、営業部は安心して事業に集中することができます。
経営管理部のメンバーが微妙な会社から、優秀なメンバーが揃っている会社に転職して働くと、その働きやすさの違いに驚くと思います。
優秀なメンバーが揃っている経営管理部があると、自分の後ろには常に「専門家集団がいる」と思えるので、とても心強い気持ちで働くことができます。

これは経営陣でも同じで、経営管理部のメンバーが優秀だと、経営陣も経営に集中できるようになります。
それが理想的な経営状況です。

逆に、経営管理部のメンバーが微妙な能力しか持っていない場合、経営陣は経営の片手間に管理業務をこなさないといけなくなりますし、営業部は様々な点でブレーキをかけられます。

その代表例が法務です。
法務がボトルネックになっている会社は非常に多いのが現状で、たかが契約書1通のチェックのために1週間以上も時間を要するなんて会社もザラにあります。
私が知る限りで最も長かった会社は、契約書1通のチェックに3ヶ月かかる会社です。
きちんとした大手企業でしたが、法務が全くと言っていいほど機能していないようで、顧問弁護士に直接投げた方が安くて早い状態でした。
この会社では、法務チェックにあまりに時間がかかってしまうことで事業部とも揉めており、双方が非協力的な組織になってしまっていて、完全に機能不全を起こしていました。

こうなってしまうと、法務部はお荷物でしかなくなってしまいます。
また、このような事態を放置しておくと、十中八九不正行為(又は不適切行為)が行われるようになり、内部統制が機能しなくなります。
このような事態を防ぐためにも、経営管理部門に入れるメンバーについては、慎重に吟味し、選抜する必要があります。

私が思うに、経営管理部門が本来の役割を果たせるかどうかは、採用段階である程度決まってしまうと考えています。
経営管理部門の各メンバーが奉仕者としての精神を持っていることが何よりも重要なことです。
ホスピタリティと言い換えても良いですが、そのような精神がない人を経営管理部門に入れてしまうと、少しずつ機能不全が起こっていきます。

また、法務に限らず、経営管理部のそれぞれの部署は、経営を実質的に止められる力を持っています。
自分たちの職務を放棄し、あえて怠業を行えば、経営を実質的に止めることができます。

だからこそ、経営陣は、経営管理部門のことをよく理解し、組織が機能不全を起こさないように、採用時に細心の注意を払う必要があります。
そして、採用後も定期的に組織のメンテナンスに努めていた方が良いでしょう。

3.経営管理部に属する部署とその採用

前述のとおり、経営管理部の仕事は、極めて広範に渡るため、細かく見ていくといくつもの部署に分かれます。

以下がその主な部署です。

  • 経理部:会計帳簿の入力、証憑の管理、月次決算等
  • 財務部:資金調達、資金繰り、投資分配に関する資料作成・分析等
  • PR / IR:広報記事の作成、メディア対応、IR記事作成、投資家対応等
  • 法務部:法務業務全般
  • 人事部:採用、人事制度構築等
  • 労務部:労務管理、給与管理、従業員のメンタルケア、福利厚生制度構築等
  • 総務部:事務作業全般、備品・什器管理等
  • 内部監査:社長直属の部署として会社内部を監査する業務等
  • 経営企画部:経営戦略策定、M&A等
  • 情シス:社内のIT機器・設備関連の業務全般

上記の部署はそれぞれ専門分野が異なり、かつ、専門性が高い業務が多いため、それぞれに専門家を置く必要が出てきます。
そのため、経営管理部の管理職クラスの採用はなかなか大変になることが多いです。

転職市場には、ハイクラス層自体があまり出てこないため、良い人材が現れたらすぐに取り合いになります。

特にハイクラス層の採用が難しい部署は、経理・財務・法務・経営企画・情シスです。
これらの部署の管理職クラスは、その多くが何らかの難関資格の有資格者であったり、経歴的にその分野の知見が深いことが一目瞭然だったりします。
そのような人材は、転職市場に出てくる前に、知り合いから声がかかることが多いため、わざわざ転職サイトに登録しなくても、知人の紹介などで転職先が決まります。

また、いざ転職をしようとすると、会社側が引き止めにかかることが多く、それによって待遇が改善されます。
その結果、転職を思い留まることも多いため、転職市場になかなか現れません。

さらに、経理・財務・法務については、ハイクラス層になればなるほど公認会計士・税理士・弁護士・司法書士などの資格を持っていることが多いため、転職以外にも「独立」や「外資コンサル」「大手監査法人」「弁護士事務所」などの選択肢が加わるため、事業会社の年収帯では太刀打ちできないことも多いです。
そのため、ハイクラス層の採用については基本的には長期戦になる傾向があります。

創業間もないベンチャー企業では、まだ知名度や待遇面で若干不利な部分があるため、尚の事苦戦することが多いです。
だからこそ、経営管理部門の組織構築を行う場合は、早め早めの行動が肝心になってきます。

来年か再来年には拡大期に入りそうという状態ならば、管理職候補の採用に動き出すべきだと思います。
最初は知人や友人経由で有資格者と会って、専門職の考え方やインセンティブ(行動を誘発する事象)を理解する時間を作ったほうが良いでしょう。
FacebookやLinkedInなどを活用すれば、比較的簡単に専門職とのつながりは作れます。
専門職が何を欲しているのか、どういう職場だと楽しいと感じるのか、報酬はいくらぐらいが適正なのか。

そういう相場感への理解が深まれば深まるほど、採用で成功しやすくなるので、早い段階からいろいろな専門職に会っておくことをオススメします。

おわりに

ということで今回は経営管理部門の概要や採用について簡単に解説させていただきました。
次回以降の記事では、それぞれの部署の詳細について解説していきたいと思います。

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瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

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