組織マネジメントにおいて最も難しい論点の一つがモチベーション管理です。
組織心理学の分野でもモチベーションの研究は進んでいて、その中でも特に重要な理論として「職務特性理論」が挙げられます。
しかし、職務特性理論はとても難易度が高く、理解するのに苦労する理論でもあります。
そこで本記事では、職務特性理論をできる限りわかりやすく解説していきたいと思います。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、人間のモチベーションに関する理論である「職務特性理論」をご紹介いたします。
かなり難易度の高い心理学理論ですが、できる限り平易な言葉で表現していく予定です。
より詳しく知りたい方は心理学の文献をいくつか読んで、知識を深めていただければと思います。
職務特性理論(職務特性モデル)とは、端的に表現すると、個人のモチベーションはその職務の特性に依存するという理論です。
この理論は、ハーバード大学の教授であるリチャードハックマン(J. Richard Hackman, 組織心理学)とテュレーン大学の教授であるグレッグオールダム(Greg R. Oldham, 組織行動・経済学)によって提唱されました。
原典を読みたい方は以下のサイトから所蔵している図書館を選んで、借りる方法を模索してみてください。
かなり古い論文なので、出版物として購入するのはかなり大変だと思うので、国立国会図書館や大学の図書館などで借りて読む方が現実的だろうと思われます。
Work Redesign:Hackman, J. Richard, Oldham G.R.
職務特性理論は、人間が内発的動機づけ(いわゆるモチベーション)を高めて、意欲的に仕事をするまでのメカニズムを職務の特性という視点から解明しようとした理論です。
そして、その概要をできる限り簡単な言葉で表現するとすれば、以下のような内容になります。
モチベーションが上がりやすい特性を有する職務に従事する人たちは、心理状態に良い変化が現れ、結果的にモチベーションが上がる。
これが職務特性理論の概要と思っていただいて良いかと思います。
正式に学習したい方については、原典及びそれに付随する各種の研究論文を読み漁ってください。
中には数式を用いて職務特性理論を説明しているものもあるので、数学が好きな人はその方が理解しやすいかもしれません。
本記事では極力わかりやすくしていきたいと思いますので、シンプルな記載にとどめたいと思います。
職務特性とは、その名のとおり職務が持つ特徴のことを意味します。
例えば、単純作業が多いとか、頭を使う作業が多いなどが該当します。
ハックマン教授らによれば、モチベーションが上がりやすい職務特性は、以下の5つの要素が含まれた職務特性であるとされています。
以下、一つずつ簡単に説明いたします。
技能多様性とは、その職務を遂行するために、どれほど多様な技能が必要とされるのかということを意味します。
そして、多様な技能が必要とされればされるほど、モチベーションは高くなりやすいとされています。
自分自身が保有する技能を十分に活かせる職務の方がやる気が出やすいということです。
一方で、技能多様性が低い場合は、その職務は単純作業が多いということになります。
単純作業そのものが悪いわけではないのですが、誰でもこなせる職務であるがゆえにすぐに慣れてしまって、モチベーションが上がりづらいという特性を持っています。
タスク完結性とは、仕事の工程について、最初から終わりまでどの程度関わっているのかを意味します。
そして、最初から終わりまで関わっている方がモチベーションは上がりやすいとされています。
一方で、タスク簡潔性が低い場合、仕事の全体像が見えず、全工程の中のほんの一部にしか関わっていないということを意味しますので、モチベーションは上がりづらいとされています。
これは実務を経験したことがある人にとってはよくわかる特性ではないかと思います。
自分が処理しているタスクが、経営全体の中でどれほど重要なものなのかがわかりにくい状態では、なかなかモチベーションは上がりづらいものです。
タスク重要性とは、そのタスクが組織や社会に対し、どの程度良い影響を与えているかの程度を意味します。
そして、タスク重要性が高ければ高いほど、モチベーションも上がりやすくなります。
一方で、誰にも影響しない職務や孤立した職務ではモチベーションが上がりにくくなります。
こちらも実務上の実感としてよくわかる特性です。
やはり誰かの役に立っているという実感が得られる職務の方がモチベーションは上がりやすいです。
自律性とは、自由裁量が認められている程度を意味します。
タスク処理にあたって、どの程度のスケジュール感で、どのような手順で処理していくのかについて、決定権を有している状態です。
この自律性(裁量)が高ければ高いほど、モチベーションは上がりやすくなるとされています。
一方で、自由裁量がほとんどなく、細かく指示・命令をされる業務ではモチベーションが上がりにくくなります。
こちらについても説明は不要なくらい実感として理解していただけるかと思います。
誰しもマイクロマネジメントされるのは嫌なものです。
フィードバックとは、自分の仕事の結果に関する評価を適時かつ適切に得られる状態を意味します。
そして、フィードバック情報の精度が高ければ高いほどモチベーションが上がりやすく、低いほどモチベーションが上がりにくいです。
例えば、自分で行った業務の成果物について、すぐに直属の上司や周りの同僚が評価をしてくれ、それがダイレクトに伝わるような職場環境にいると、モチベーションは上がりやすくなります。
なお、ここでいうフィードバックは、ポジティブなフィードバックを基本としています。
もちろん、良くない点や不足している部分の指摘もフィードバックなのですが、それをポジティブに伝えられる環境が整っていることを想定しています。
以上が、モチベーションが上がりやすい5つの職務特性です。
この5つについては確実に記憶しておきたいところなので、再度列挙しておきます。
上記の5つの職務特性を有する職務であれば、以下の3つの心理状態の変化が起こるとされています。
以下、一つずつ解説していきます。
仕事の有意味感とは、自分が今行っている職務が、社会的に意義のあることであって、重要な職務なのだと感じられることを意味します。
それを感じることによって、モチベーションが上昇していくわけですね。
そして、この有意味感との関係では、以下の3つの職務特性が特に重要であると考えられています。
この3つの職務特性を有する職務であれば、その仕事に対する有意味感が向上していきます。
仕事の成果への責任感とは、自己の行う職務の結果として発生する成果物の品質や業績について、自ら進んで責任を取ろうとする感情のことを意味します。
これが上昇することで、各人がプロフェッショナルとしての誇りを持って業務にあたる状態になります。
この心理状態の変化に特に影響を与える職務特性は「自律性」です。
この職務特性が上昇すると、自分の自由裁量の範囲が広がっていきますから、その分責任が伴っていきます。
自由にやっていい代わりに、自分の仕事の結果に対して責任を負わないといけない立場になるため、結果的に責任感が芽生えてモチベーションも向上していくという流れです。
成果への知識の増加とは、他者から得られたフィードバック(職務適性の一つ)によって、自己の行った業務に関する知識やノウハウが蓄積され、その職務の成果に関する知識が増えることを意味します。
これによって、次回以降に行う業務の質が向上していくため、本人に達成感が芽生えます。
その結果、モチベーションが上がりやすくなるという構造です。
そして、業務に関する知識等が増えることで、自己効力感や自己肯定感の上昇にも繋がると思われるため、それらの要素も相乗的に作用することで更にモチベーションが上がっていくことになると思います。
以上3つの心理状態の変化が起こることで、モチベーションの向上が期待できます。
職務特性理論は、マネジメント分野の専門家にとっては常識的な理論なので、すでに多くの方が理解しているだろうと思います。
しかし、実際に実務で応用しようと思うとかなり難易度が高く、成功している事例も少ないです。
そのため参考になるかはわかりませんが、5つの職務特性それぞれについて、実務での応用法について考えていきたいと思います。
技能多様性は、その職務の遂行にどれだけ多くの技術や能力が必要なのかという要素なので、そもそもの職務自体が単純なものであれば高めようがありません。
そのため、単純作業が多い職種に関しては根本的な改革は難しいです。
ただ、職務の幅を調整することで、技能多様性を高めることは可能です。
例えば、法務に人事業務の一部を任せてみたり、経理に財務の業務を一部任せてみたりすることで、技能多様性を調整するのです。
短期的なジョブローテーションなどを活用することでも技能多様性を向上させることができます。
特に大手企業では、同じ職種であっても業務が細分化されていて、単純作業に終止してしまいやすい環境が整っていますので、たまに業務の幅を調整して、技能多様性を上げるという施策を行ってみると良いと思います。
タスク完結性は、一連のタスクにおいて、その最初から最後まで関わっている程度のことでした。
この点については改善が容易で、全工程に関わらせてあげれば良いだけです。
なお、実際に全工程の作業をさせる必要はありません。
例えば、各工程のMTGに参加させてあげたり、タスクの全体像を説明してあげたりすることでもタスク完結性は高まっていきます。
自分が今行っている業務が、全体で見るとどこに位置しているのか、そしてどれほど重要なプロジェクトに関わっているのかを理解できれば、タスク完結性は向上します。
タスク重要性は、自己の行うタスクが組織や社会に与える影響の度合いのことでした。
ということは、自分の行うタスクがどれだけ大切な仕事なのかを理解してもらえればいいわけです。
したがって、こちらもそこまで難しい改善ではありません。
日頃からそれぞれのタスクの重要性を口頭で伝えたり、感謝の気持ちを示したりすることで重要性は高まっていきます。
特に間接部門では日頃の感謝を伝えることが効果的です。
間接部門のタスクの多くは、誰かの目に触れない雑務であることが多いため、自分の行っている作業の重要性を感じられる瞬間が乏しいです。
そのため、誰の役に立っているのかわからなくなることがよくあります。
間接部門は会社にとって不要なのではないかと不安になることも多い職種なので、意図的に感謝の気持ちを述べる機会を増やしたほうがモチベーションも上がりやすいと思われます。
自律性は、自由裁量が認められている程度でした。
こちらも改善が容易で、部下に仕事を振る際にできるかぎり裁量を与えればいいだけです。
ただし、自由裁量を与えるべき人とそうでない人がいるので、そこはよく分析して判断する必要があります。
自由裁量を与えてしまうとサボり始める人(自己管理が苦手な人)も多いので、その点には注意が必要です。
一方で自己管理能力の高い人に対しては、裁量を広く与えたほうが良いパフォーマンスを発揮することが多いので、思い切って任せてしまった方がモチベーションも上がりやすいでしょう。
フィードバックは、自分の仕事の結果に関する評価を知れる程度のことですから、フィードバックを適時かつ適切に与えれば良いということになります。
しかし、このフィードバックが最も難しいことかもしれません。
様々な会社の人事評価を振り返ってみても、適時かつ適切なフィードバックを行えているマネージャーはほとんどいませんので、大抵はネガティブなフィードバックによって部下を傷つけてしまって、逆にモチベーションを下げてしまうケースが多いかと思います。
モチベーションを上げるためのフィードバックでは、基本的にはポジティブなフィードバックを与えることに集中して、ネガティブなフィードバックを与えるときは細心の注意を払って言葉を選びましょう。
ということで今回は、組織心理学分野の中でも特に重要な「職務特性理論」について解説させていただきました。
皆様のマネジメントに活かしていただければ幸いです。
では、また次回。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。