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ベンチャーの経営企画の業務内容及び活かせる資格等について解説します!

2023/11/22 更新

はじめに

ここ数年で、ベンチャー企業の中にも「経営企画」又は「経営戦略室」という部署を設置して、経営を戦略的に実行して行こうという企業が増えてきました。
それもあって、経営企画職の需要が高まってきています。

しかし、ベンチャー企業における経営企画職は若干特殊な面もあるため、転職前にその概要を理解しておいた方が有益かもしれません。
企業側としても、経営企画にどのような業務を任せるのかについて、イメージを持っておくことは重要なことです。

そこで今回は、ベンチャーの経営企画について解説していこうと思います。

1.経営企画部の業務内容と役割

大手企業の経営企画部の場合、ある程度業務内容が固まっていて、細分化も完了していることが多いかと思います。
そのため、大手企業で経営企画業務を数年経験すれば、ある程度体系化された経営知識と業務経験が得られます。

しかし、ベンチャーの場合は、原則として経営企画の業務に制限がありません。
もちろん細分化もされていないことがほとんどです。

経理・財務・法務の業務とも言えそうなことでも、戦略に関わること又は全社的な経営に関わることだからとりあえず経営企画に割り振っておこう。
というくらいざっくりとした感じで業務範囲が決まります。
つまり、何も決まっていないに等しいのです。
ベンチャーの経営企画に入る場合は、他の部署の業務といえそうなものでも全て経営企画に降ってくる可能性があるという想定でいた方が良いでしょう。

ただ、その中でも一般的にこの業務は経営企画がやることが多いという内容もあるので、その点について解説していこうと思います。
それが以下の3つです。

(1) 経営戦略策定業務
(2) 組織再編業務
(3) M&A関連業務

では、一つずつ解説していきます。

(1) 経営戦略策定業務

まず重要なのが「経営戦略策定業務」です。

この業務では、CEOが描いた長期的なビジョンを実現するために、具体的な戦略・戦術を確定する作業を行います。
成果物でいうと「中期経営計画」又は「投資家向けピッチ資料」となります。
ベンチャーでは定期的に資金調達を行わないといけないので、経営計画書やピッチ資料が必須となります。
会社によっては財務部が作ることもありますが、経営企画部が置かれている企業では、原則として経営企画が作成します。

しかし、不確実性の高いベンチャー企業の事業領域で、質の高い経営計画を作るのは至難の業です。
そもそも答えのない問を考え続けるような作業ですし、ベンチャーの未来なんてどうなるかわかりませんから、常に不確実、不明確な状態で一応の目標値を決め、それに対する根拠を一つずつ作り出していかないといけません。
運良く市場調査に関するレポートや統計資料が公開されていればいいですが、そうそう上手く根拠資料は見つかりません。
そのため、場合によっては自分で市場調査をして、レポートにまとめる作業も発生します。

大学院等で実証研究を行ったことがある人にとっては容易い作業ですが、初めて行う場合は何から手を付けて良いのかわからず、途方に暮れることもあると思います。
それでも「仮説」を立て「調査」を行い、根拠のある「戦略」を練って、実現可能な「戦術」を決定し、愚直に「実行」していかないといけません。
経営企画職は、24時間365日、頭を使い続ける仕事と言っても過言ではないでしょう。

なお、経営戦略の策定については、外資コンサルの戦略部門にいた方などが得意な領域です。
そのため、経営企画には外資コンサルの出身者が多く在籍しています。
経営戦略を独学で学ぶことも可能ではありますが、やはり実戦経験がものをいう職種なので、戦略系のコンサル会社に入って、多くの経験を積んだ方が早いかなと思います。

もし大学院という座学で学ぶ場合は、MBAの経営戦略専攻などに入学すると良いかと思います。
経営戦略系の領域で強いのは、慶應のMBAと早稲田のMBAです。
ただ、経営戦略論は、経営学の中でも最も難しい科目の一つだと思うので、大学院に行く前にある程度基礎的な理論は抑えてから入学されることをオススメいたします。

経営戦略を学んでみたいという奇特な方がもしいれば、以下の本を読んでみてください。

【経営戦略論I マイケル・ポーター】

www.amazon.co.jp/dp/4478008426

マイケル・ポーター教授(ハーバード大学院)はおそらく誰もが知っている経営戦略論の権威です。
もちろん、彼の提唱する説には世界中の経営学者から様々な批判がなされていますが「様々な批判がなされるほど読まれている」ということでもあるので、経営学の世界では間違いなく世界トップクラスに属する教授です。
ただし、彼の理論やフレームワークが実務で使われているかというと、ほとんど使われておりません。
経営戦略分野の実務家の多くは、それぞれのコンサル企業で使用するフレームワークを使うことが多いと思いますので、やはり実践的な知識はそういったコンサル会社で得たほうが良いと思います。
もっとも、マイケル・ポーターの理論を全く知らないというのはなかなか厳しいので、一度は読んでみて、理解する努力をするべきです。

この本を読んで「面白い」と感じられるなら、経営企画職を目指すのもありかもしれません。

(2) 組織再編業務

次に「組織再編業務」について説明いたします。

ここでいう組織再編とは、子会社の合併や事業部の切り離し(会社分割等)、その他事業部の解体や統合などを意味します。
ベンチャー企業では、不必要に手広くやりすぎて、一切活動していない子会社を多く抱えてしまっていたり、分ける必要のない事業をわざわざ分けて、別々の事業部で行っていたりすることが多いので、経営の合理化のために定期的に組織再編が必要になってきます。
その場面で主導的な役割を果たすのが経営企画部です。

経営企画部は、より合理的な経営ができるように様々な組織再編スキーム(仕組みや手段)を検討して、経営層に提言し、実際に組織再編を進めていきます。
場合によってはリストラクチャリングも行わないといけませんので、楽しいことばかりではありません。

そして、組織再編は会社法の中でも難易度が高い分野なので、法律知識も必須になってきます。
その他、財務・税務・労務など幅広い分野の知識が必要になることが多い業務なので、極めて高い専門性が求められます。
そのため、経営企画として長く活躍したいのであれば、自己の専門分野をまず1つ定め、その分野の知見を十分に深めた後、それ以外の派生的な分野も学び続けるという作業が必要です。
経営戦略のみ、会計のみ、法律のみでは、すぐに頭打ちになってしまうので、日頃から様々なことに興味を持ち、勉強し続けないといけない職種です。

(3) M&A関連業務

最後に「M&A関連業務」について解説いたします。

この業務は、その名のとおりM&Aに関連する業務全般のことを意味します。
なお、M&Aとは “Mergers(合併)and Acquisitions(買収)” の略称です。
前述した「組織再編」は主にグループ内の構造変更の話でしたが、M&Aは主にグループ外の会社と行う取引で、企業の買収又は売却等のことを意味します。

M&Aでは、他社自体又は他社が保有する会社を購入する場合(買手)と、自社又は自社が保有する会社を売る場合(売手)がありますが、10年ほど前までは、ベンチャー企業がM&Aを行うときは大抵買われる側(売手)でした。
しかし最近では、より積極的に他社を買収していくベンチャーが増えてきており、M&Aも重要な経営戦術の一つになっています。

そしてご存知のとおり、M&Aは極めて専門性の高い分野で、会計・財務・税務・法務・労務・営業・ITなどの広い領域の知識が満遍なく必要になってきます。
そのため、経営企画職の中でもM&Aディール(取引)を最初から最後まで一貫して担当できるほどの人は極僅かです。
大抵は、簡易的な交渉だけを担当して、デューデリジェンス(買収に行う審査)などの難しい業務のほとんどを外部専門家に委託するというケースが多いでしょう。
それでも外部専門家の話を理解できるだけの基礎学力が必要なので、難易度は高いです。

また、無数にある他社の中でどこを買収するのか、そして、自社のどの子会社(または事業部)を他社に売るのか。
仮に買収又は売却するとして、どのようなスキーム(手段・仕組み)で取引を行うのか。
さらには、いくらで買う・売るのか。
それを考え、実行するのが経営企画の役割なので、かなりプレッシャーのかかる役職です。
言うまでもなく非常に難しい決断を迫られる立場にいます。

そして、M&A業務では、基本的には億単位から数十億単位のお金が動きます。
そのくらいの額になってくると、ベンチャーの利益数年分くらいに相当することも多いので、失敗したときの損失も莫大です。
それに、問題の無い会社なんて存在しませんから、ディールの途中で必ずと言っていいほど問題が見つかります。
それら一つ一つのリスクについて損害の範囲を予測し、買うか買わないか、売るか売らないかを意思決定していきます。
最終的な決断はCEOや取締役会が行いますが、経営企画からの報告を基礎にすることが多いため、責任の重い役割を担っています。

以上が、ベンチャー企業おける経営企画の主な業務及び役割です。
財務と並んで専門家が集まりやすい部署なので、経営企画職の中には公認会計士・税理士・弁護士・外資コンサルや投資銀行等の出身者などが多くいます。
財務や法務などを数年経験した後で経営企画に移るということも多くあるので、ある程度全体的な知識を習得し終わってから入るべき部署ともいえます。

2.ベンチャーの経営企画に向いている人

では、上記のような経営企画職に向いている人はどのような人でしょうか。

まずはなんと言っても「変化耐性が高い人」です。
ベンチャーでは、大きな変化が毎日のように起こります。
小さい組織であるがゆえに、創業者や経営者の権限がとても強い組織です。
それゆえに、朝令暮改が通常運転で、意志を貫徹する方が珍しいと感じるくらいです。
また、方針転換も日常茶飯事で、経営戦略の変更やM&Aディールの目的の変更なども頻繁に起こります。
そんなことで一々イライラしていたら、身も心も保ちませんので、サラッと受け流せるだけの胆力が必要になってきます。
いつでも冷静に、ディールや作業をこなしていけるような人だと、ベンチャーの経営企画でも十分に活躍できると思います。

次に「正確な仕事をする人」も向いています。
経営企画は、財務や経理と同様に数字を扱うことが多い部署であるため、会計に関する知識が必須になります。
それゆえに、作業が正確であることが当然の前提となります。
大きなミスなく、素早く作業をこなせるような人だと重宝されるでしょう。

そして、ベンチャーという特殊性から「未来志向の人」の方が活躍しやすいです。
ベンチャー経営者の多くはビジョナリーな人が多く、経営陣にも夢を語るのが大好きな人たちが多いです。
そのため、批判的な人や未来を悲観しやすい人は敬遠されがちです。
私個人としては、悲観論者も絶対に必要だと思っていますが、ことベンチャーの世界では生きづらいことが多いだろうと思います。
そのため、基本的にはポジティブ思考で、より良い未来を考えられる人の方がベンチャーの経営企画には向いています。

最後に「高いコミュニケーション能力を持った人」が向いています。
ここでいうコミュニケーション能力は、単に論理的思考力や論述力が高いことだけを意味しません。
それらは経営企画であれば当然に持っているべきものであって、特別な能力ではないからです。
ここでいう高いコミュニケーション能力とは、論理性や論述力という能力を、他人を不快にさせることなく使いこなせる能力です。
ここが極めて難しいところです。

経営企画職のプロの皆さんの多くは、投資銀行・外資コンサル・監査法人・弁護士事務所等でバリバリに活躍してきた人たちです。
そういう人たちの多くは、高い論理性や思考力を持っているがゆえに、コミュニケーションがストレートなことが多く、歯に衣着せぬ物言いをしやすい傾向があります。
プロ集団の中でならそのようなコミュニケーションでも許されることもあるのですが、ベンチャーの構成員の大半は普通の人ですから、なかなか相性が悪いのです。
場合によっては攻撃的な人、批判的な人、コミュ障な人という認識をもたれやすくなります。
そのため、ベンチャーの経営企画職に入ったばかりの人の中の一部は、コミュニケーションで悩まされることになると思います。
今までの常識をそのまま適用してしまうと軋轢を生むことが多いので、早めに調整を行い、チューニングを済ませておく必要があります。
それができるかどうかという点も、経営企画への適性の一つです。

3.ベンチャーの経営企画で活かせる資格・学位

最後に、経営企画という特殊な職種で活かせる資格や学位について解説していこうと思います。

前述のとおり、経営企画には経営に関する幅広い知識が必要となります。
一例を挙げると、会計・財務・税務・管理会計・マーケティング・営業・法務・労務・ビジネモデル・経営戦略・組織開発・組織心理(モチベーション)などです。
これらすべての知識を持っている人は少数派ですが、基礎的なところだけで良ければ、大学院で学ぶことができます。
それがMBA(経営学修士号又は経営管理修士号)です。

日本のMBAでは、あくまでも基礎的な知識が得られるだけなので、そこまでレベルの高い内容ではないですが、MBAを持っていて損することはまずないだろうと思います。
MBAによって転職時の評価が飛躍的に向上するということはまずありませんが、加点評価にはなります。
関東でいえば、一橋大学、早稲田大学、慶應義塾大学、筑波大学などのMBAを持っていると、転職市場でも一定の評価を受けます。
西日本では、京都大学、神戸大学、同志社大学などが人気です。

続いて「公認会計士」も非常に有益です。
公認会計士資格を持っていれば、経営企画の業務の半分以上をスムーズにこなせるでしょうし、財務・税務という領域では外部の専門家にあまり頼らずとも独力で業務を完結できます。
また、経営企画としての業務が少ないときや手が空いたときは、経理や財務などの業務も手伝うことができるので、企業側からのニーズも高く、基本的には引く手数多になると思います。
転職市場でも極めて人気の高い資格なので、持っていれば仕事に困ることはまずないでしょう。

そして、公認会計士と同様に「税理士」も有益です。
税務の知識を持っていれば、M&A関連業務で活かせますし、会社全体としても税務に明るい人材が経営企画にいてくれるだけでとても心強いです。
そのため、公認会計士と同等以上に活かせる資格だと思います。

他には、弁護士資格日商簿記1級全経簿記上級米国公認会計士米国公認管理会計士証券アナリストなども非常に有益で、経営企画の業務の中にはこれらの知識を活かせる場面が多くあります。

おわりに

ということで今回は、ベンチャー企業における経営企画というちょっと特殊な職種について解説させていただきました。

極めて幅広い知識が必要となる職種なので、転職市場でプロの経営企画に出会える事自体稀なのですが、これからの時代の変化を考慮すると、より経営企画の重要性が上がっていくだろうと予想しています。
というのも、ここ数年のベンチャー業界の競争環境は激化していっておりますし、グローバル化も進んで来ています。
その結果、経営戦略や経営計画の重要性がより高まり、多くのベンチャー企業においてプロの経営企画人材への需要も高まっているのです。

現時点でも、経営企画としての能力が高い人材については、かなり高い年収帯でのオファーが来ます。
ベンチャーの経営管理部門の中でも、財務と並んで専門家が多い職種なので、若手の皆さんも3年後、5年後を見据えて、今から準備しておいても良いかもしれません。

では次回は、経営管理部門の中でもIR/PRという職種について書かせていただく予定です。
お楽しみに!

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株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です