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コラム
2024/09/06 更新

ビジネスでも使える認知的不協和理論(心理学分野の理論)を解説します

上手にやりたいけどできないこと、続けたいけど続けられないことなど。

矛盾する2つの事象が発生してしまったとき、人はどのように解釈して、心の整理をするのでしょうか。

これに関連する心理学理論が認知的不協和理論です。

本記事ではこの認知的不協和理論を解説していきます!

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今日は、イソップ寓話の「すっぱい葡萄」にも出てくる現象である「認知的不協和理論」について解説していきます。

この寓話は、あるところに、腹ペコのキツネがいて、大きな木の上に美味しそうな葡萄がなっているのを見つけます。
それを食べようとしてキツネは何度も何度も飛び上がるのですが、葡萄まで届きません。
しばらくしてキツネは諦めて、捨てゼリフを吐きます。

「どうせこんな葡萄、酸っぱくてまずいだろう!食べてやるもんか!」

キツネは自分の能力が足りなかったことを認めたくなかったので、自己正当化のために、その葡萄を酸っぱいものだと決めつけたのです。

今回ご紹介する「認知的不協和理論」というのは、正しく自己正当化に関する理論です。
組織内でもよく起こることなので、重要な心理学理論として学んでいきましょう。

1.認知的不協和理論とは

認知的不協和理論とは、人は矛盾する2つの認知(知識、解釈、感覚、感情など)を得た場合に不快感が生じてしまうので、その不快感を軽減させるため認知を歪めてしまったり、行動を変化させたりしてしまうという理論です。

この理論の提唱者はアメリカの社会心理学者であるレオン・フェスティンガー氏です。
彼の理論は日本でも「認知的不協和の理論」(誠信書房)として1965年に翻訳され、出版されていますが、すでに絶版となっているので、大型の図書館又は心理学研究科の図書室でしか読めないかもしれません。
ただ、内容は比較的シンプルなので、概要を説明していこうと思います。
この理論の骨子は以下の2つの仮説から成り立っています。

  1. 不協和生起仮説
  2. 不協和低減仮説

以下、一つずつご説明させていただきます。

(1)不協和生起仮説

不協和生起仮説とは、2つの矛盾する認知を獲得した場合に、不快感が生じるという仮説です。

ここでいう認知とは、知識、意見、認識、信念、感覚、感情などを意味すると思ってください。

先程のすっぱい葡萄のお話では、キツネは「葡萄を食べたい」と思っているし、そう認識しています。
でも、現実だと、自分のジャンプ力が足りずに「食べられない」という状況です。
キツネ本人は「食べたい」という認知を持っているにもかかわらず、現実は「食べられない」という認知が発生しており、両者は矛盾しています。
このような場合に、不快感が発生してしまうという仮説です。

これはもちろん、人間でもよく起こる現象です。

例えば、東京大学に進学したくて何年間もずっと勉強を続けてきた人が、2浪、3浪と繰り返し挑戦しても合格できなかった場合に不快感が生じるケースや自分の外見に自信があって自分を美しいと思っている人が、他人から外見の悪さを指摘されたときに不快感を生じるケースなどです。
自分が持っている認知と客観的に生じている認知との間に矛盾が生じれば、大抵の場合は不快感が発生するものです。

この仮説については多くの人が自分自身の経験として感じたことがあることだろうと思います。

(2)不協和低減仮説

不協和低減仮説とは、矛盾した2つの認知によって発生した不快感を解消するように動機づけされるという仮説です。

動機づけられるというのは、認知を変える、歪める、改める方向に誘導されるという意味だと思ってください。
要するに、2つの矛盾する認知について、自分の中で矛盾のない理屈や解釈をつけたり、矛盾のない行動をとることで誤魔化したりしてしまうということです。

すっぱい葡萄の例でいうと、キツネは「食べたい」と思っている葡萄を「食べられない」という状況に陥ったため、矛盾した2つの認知を抱えてしまい、不快感を抱いてしまっています。
これを解消するために、キツネは、当該葡萄に対する認知を歪めるという選択をしました。
つまり、その葡萄は酸っぱくてまずいものであるから、食べる必要がなかったのだという解釈をすることで、自己の認知に矛盾が生じないようにしたのです。

ただ、現実の話をすると、キツネはその葡萄を食べてすらいないわけですから、すっぱいかどうかなんてわからないはずです。
でも、酸っぱいものだと思い込むことで認知を歪めて、現実逃避をしているのです。
このように、自分にとって都合の良い解釈をすることを「合理化」といいます。

人間も同様の合理化を行うことがよくあります。
例えば、喫煙者は日々タバコを吸っていますが、このタバコという製品は健康を害するということがわかっています。
一部の例外を除いて、わざわざ自分から健康を害したい人はいないと思うので、喫煙者の中では「タバコを吸いたい」という認知と「健康を害する」という認知が矛盾してしまっているのです。
これを解消するために、喫煙者は以下のような自己の認知を歪める解釈をすることが多いです。

「タバコが健康を害するなんていう科学的根拠はない」
「タバコを吸っていても長生きしている人はたくさんいる」
「タバコを吸っているからといって直ちにガンになるわけではない」
「タバコを吸わない人だって死ぬときは死ぬ」

このように考えることで、矛盾がない解釈をしようと試みるわけです。

これら2つの仮説が合わさって認知的不協和理論が形成されています。

2.防衛機制と認知的不協和理論

上記のような認知的不協和理論の事例は至るところで目にすることができます。

例えば、身体に悪いとわかっていながら深酒を繰り返す人
学ばないといけないとわかっているのに勉強をサボり続ける人
怒られるとわかっていながら仕事をサボる人
いけないとわかっていながら不倫をし続ける人など

日常的に目にすることができる事例です。
これらの矛盾した行動を取る人たちの多くは、本人の心の中で認知を歪めて自己正当化をしているのです。
これは誰にでも起こりうる現象です。

そもそも人間には「防衛機制」という機能が備わっていて、その一種として合理化があると考えられています。
防衛機制とは、受け入れがたい現実に直面した際に、その不安を軽減させようとする心理メカニズムのことをいいます。
この防衛機制があるおかげで人間は精神の安定を保つことができます。
この防衛機制と認知的不協和理論は重なるところが多いので、一緒に覚えておくと良いかもしれません。

なお、防衛機制は心理学者であるジークムント・フロイト(心理学者兼精神科医)が発見し提唱した概念です。
臨床心理学分野のキーワードなので、看護師の皆さんやカウンセラーの皆さんにとっては認知的不協和理論よりも防衛機制の方が有名かもしれません。

おわりに

ということで今回は、認知的不協和理論についてご説明させていただきました。
認知的不協和理論自体はそこまで難しい理論ではないので、覚えることは容易だと思います。

しかし、実務や人生で活かすのはとても難しい理論です。
自分や部下が認知的不協和に陥って合理化を行っているということはわかっても、それをコントロールすることは容易ではありません。
人間は誰しも、自己の間違いや過ちを認めたくないものです。
自己の無能を認めて、受け入れ、改善するという意思決定を行えるようになるためには、それ相応の器が必要になります。

その器を手に入れるための手段の一つとして、理論を学習するという方法があると思っています。
様々な心理現象を理解することで、自己や他者を客観的に分析することができます。
それがきっと解決のヒントを与えてくれると思うので、これを機に認知的不協和理論も抑えておきましょう!

ではまた次回。

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瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

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