記事FV
コラム
2024/09/06 更新

ベンチャー労務の業務内容及び向いている人、活かせる資格などについて解説します!

ベンチャーの中でも縁の下の力持ちとして重要な存在である「ベンチャー労務」。

その業務内容や向いている人の特徴、そして、活かせる資格などについては意外と知られていません。

そこで本記事では、ベンチャー労務について少し深掘りして解説していきます!

はじめに

スタートアップ期のベンチャー企業には、まだ労務の専任担当者はいないかもしれませんが、IPOの準備段階に入ってくると、徐々に従業員数が増え始め、専任の労務担当者が必要になってきます。

そして、ベンチャーで労務を担当するというのはなかなか大変なことで、かつ、イレギュラーが多い環境で働くことになります。
そのため、ベンチャーに転職をする前に、ベンチャー労務がどういうものなのかについて、ある程度具体的なイメージを持っておくべきです。

そこで今回は、ベンチャー労務への転職を検討している方に向けて、ベンチャー労務の業務内容・適性・活かせる資格などについて解説していこうと思います。

1. ベンチャー労務の業務内容

ベンチャー企業にも経営管理部門という組織体があり、その中でも労務は重要な存在です。

確かに、労務はその業務の特性上、あまり目立つタイプの職種ではないですが、縁の下の力持ちポジションで、経理・財務・人事・法務及び全従業員から頼られる存在です。
特に拡大期に入ったベンチャー企業においては、労務の重要性が増していきます。
なぜなら、入社人数が急激に増加しやすい時期だからです。
多いときは、毎月数十人単位の新入社員を迎えることになりますし、新卒採用を行った場合は100人以上の入社手続をしないといけなくなることもあります。
そうなってくると、経理だけで対応することは困難ですから、労務の力が必要不可欠となってきます。
ベンチャー労務の場合、それらの業務をほぼ1人、多くて2~3名で処理していくことになるので、なかなかハードな職種です。

そんなベンチャー労務の主な業務を類型ごとに列挙すると、以下のようなものになります。

  1. 勤怠管理
  2. 給与計算
  3. 各種保険手続
  4. 安全衛生管理
  5. 労務相談
  6. 就業規則の整備
  7. 入退社手続

以下、一つずつ簡単に解説させていただきます。

(1) 勤怠管理

まずは労務業務の代表格である勤怠管理です。

大手企業の労務との違いは、勤怠を正確に管理できていない会社が多数ということくらいです。
ベンチャーのほとんどは中小企業に属しますし、IPO準備段階の初期の頃はなかなか酷い管理状況だと思います。
内部統制が比較的優れている会社でも勤怠漏れは日常茶飯事で、正確に管理できない(月初に締められない)ことが多いと思います。

その他、有給休暇等の管理も杜撰なことが多いので、ベンチャー労務になったら、それらの問題に対して一つずつ制度構築して、少しずつ管理が可能な状態に持っていかないといけません。
長いときは数年かかるプロジェクトなので、根気強く処理していきましょう!

(2) 給与計算

次に、こちらも労務業務の定番、給与計算業務があります。

ベンチャーの場合、一部の企業についてはまだExcelで管理しているところもあるようですが、流石に少数派になってきました(と信じたい)。
そのため、原則としてこの業務はDX化が進んでいます。

ジョブカンやマネーフォワードなどのSaaSを用いて計算していくことになると思うので、そういったツールの使い方に慣れておく必要があります。
といっても、最近のSaaSは見ればわかるUIになっているので、そこまで心配はいらないかもしれません。

(3) 各種保険手続

続いて、各種の保険手続があります。
こちらも労務の代表的な業務の一つです。

この業務は、従業員一人ひとりの健康保険、厚生年金、雇用保険等の手続を行う業務です。
ただ、多くのベンチャー企業はこれらを内製化していないので、大抵は顧問の社労士に丸投げするコースになると思います。
そして、その方が効率的です。

ただし、社労士資格をお持ちの方については全部内製化しても良いと思います。
先々のことを考えると、その方が良いです。
最近では、SaaSで電子申請もできるようになってきているので、比較的内製化しやすい業務になってきました。

(4) 安全衛生管理

安全衛生管理業務については、ちゃんとやっているところとやっていないところがあるため、業務の細かい内容には差があります。
IPO準備段階に入った企業であれば、ほぼ全項目やっているはずなので、労務業務としてイメージしておくと良いと思います。

なお、従業員が50名を超えると、以下のような義務が会社側に発生します。

  • 衛生管理者の選任(労働安全衛生法第12条・労働安全衛生法施行令第4条)
  • 産業医の選任(労働安全衛生法第13条・労働安全衛生法施行令第5条)
  • 衛生委員会の設置(労働安全衛生法第18条・労働安全衛生法施行令第9条)
  • 定期健康診断報告書の提出(労働安全衛生規則第52条)
  • ストレスチェックの実施(労働安全衛生法第66条の10)
  • 休憩室の設置(労働安全衛生規則第618条、他の要件もあり)
  • 障害者の雇用義務(障害者雇用促進法43条第1項、例外制度あり)

など

細かい制度の話をし始めると話が長くなるので避けますが、ベンチャー労務になるのであれば、これらの条文や制度の詳細を学習しておくべきです。
大手企業と異なり、ほぼすべてゼロから構築することになるため、自分の中でリストを作って、何をいつ頃どうやって行えばいいのかという点をまとめておくと便利です。

(5) 労務相談

そして、労務相談も重要な業務です。

ベンチャー企業が拡大期に入ると、従業員数が増加していき、社内で起こる労働者間の問題、及び使用者・労働者間のいざこざも増えていきます。
その他様々な小競り合いが日々発生するようになるため、労務相談の件数も増えます。
それらの問題に一つ一つ丁寧に対応していくのも労務の重要な業務の一つです。
中には法務や顧問弁護士・社労士などの力も借りないといけない問題もあるので、若干大変なことも多いですが、チームプレイで乗り切っていきましょう。

(6) 就業規則の整備

ベンチャーに専任の労務が入る頃には、半数くらいの会社がすでに最低限の就業規則を整備していると思います。

しかし、中には労働基準法第89条の規定を知らずに、就業規則を策定しないままのベンチャーもあります。
その場合には、労務が就業規則を策定していくことになります。

このとき、自社のレベル感に合わせて、専門家を上手に使い分ける技術が必要です。
まず、IPOを意識せずに、単に労基法89条の義務を満たすだけでいいなら、ネットに落ちているテンプレートで十分に機能します。
そのため、自分で作成して、最終チェックだけ社労士に確認してもらえば十分だと思います。

一方で、IPOの準備を本格的にやるということであれば、様々なリスクヘッジを就業規則内に盛り込む必要があるため、顧問弁護士を活用するべきです。
就業規則を作るときは社労士に任せる場合が多いかと思いますが、社労士はあくまでも手続の専門家であって法律の専門家ではないので、就業規則や社内規程については企業法務専門の弁護士の方が綺麗な規程を作ることができます。
就業規則及び社内規程は、相互に関連していて、かつ、会社法や金商法の知識も必要になる上、法律文章の書き方をマスターしていないと変な感じの規定が生まれやすいので、できれば法律専門家に任せた方が良い案件です。

法律分野はとても広いので、どの業務をどの専門家に任せるか、という判断ができるようになっていた方が良いです。
その方が労務としての価値も上がると思うので、今のうちに実務感を磨いておきましょう。

(7) 入退社手続

最後に、入退社手続という業務があります。
これはベンチャーであればほぼ毎月発生する業務なので、サラッと処理できるようにしておかないといけません。

まず入社については、入社時のオリエンテーションや短期的なインターン制度など、会社の制度とルールを把握しやすいような仕組み作りを行う必要があります。
入社時に読んでおくべき資料などがあるとよりスムーズかもしれません。

ただ、大手企業の従業員と異なり、ベンチャーに入ってくる人の年齢層はかなり若い又は自由な人が多いため、単に書類を渡してもきちんと読んでくれるかどうか……
あまり期待しない方が良いかもしれません。
実感としてはちゃんと読んでくれる人は半数くらいかなと思います。

ベンチャー労務としては、一回で覚えてもらえないことは当たり前で、10回くらいは言い続けないといけないという想定でいるとちょうどいいです。
例えば、勤務開始時にセキュリティカードを必ずタッチしてほしい、それが勤怠管理システムにも連動するからと説明しても、セキュリティカードをタッチせずに会社に入る人は後を絶たないでしょうし、そもそもセキュリティカードを紛失する人も毎年何人も出てくるでしょう。
それがベンチャーの日常だと思ってください。
大手企業と比べると様々な点が緩いです。

次に、退社手続についてですが、ベンチャーの場合はこちらも比較的多くなりやすいです。
大手企業でも、規模が大きい分退社手続も一定数発生するものですが、ベンチャーの場合は、規模の割には多く発生するという感じで、入れ替わりが比較的激しいです。
離職率も大手企業と比べるとかなり高いのが通常なので、場合によっては入社手続より退社手続の方が多くなることもあります。

ベンチャー労務としては、退社手続が重なっても心を乱されない精神力が必要です。
退社理由の聴取などでいろいろと不満を聞く機会が増えるので、自分自身がそれに影響を受けすぎないようにしないといけません。
自分の精神を他人と同調させやすい人(共感性が強い人)は注意が必要です。

2. ベンチャー労務部に向いている人

では、上記のような業務をこなすベンチャー労務に向いている人はどのような人でしょうか。
この点について私見を述べさせていただきます。

まずは何と言っても「変化耐性が高い人」です。
これはベンチャーにおける全職種において必須の性質ですが、労務には特に必要となることだと思います。
ベンチャーは変化が激しい世界なので、変化耐性が低いとすぐに精神的に疲れてしまいます。
そのため、変化こそが日常であり、変化こそが進化の必須条件だと思える人の方がベンチャーには適しています。

次に「コミュニケーション能力の高い人」もベンチャー労務に向いています。
大手企業の労務と異なり、ベンチャー労務は原則として少数精鋭であり大抵は1名体制です。
そのため、社内で起こる労務系の業務はすべて自己の管轄領域になります。
その結果、事あるごとに他部署・事業部のメンバーとコミュニケーションを取らないといけない立場になるので、コミュニケーション能力が必須になってきます。
したがって、人と接すること、話をすることが好きな人の方が適性も高いと言えるでしょう。
しかも、何度も同じことを注意しないといけないという意味では根気強さも必要になってきます。

最後に「勉強熱心な人」が向いています。
ベンチャー労務は、大手企業の労務と異なり、労務に振られる予算がほとんどありません。
そのため、何でもかんでも顧問弁護士に確認するとか、社労士に丸投げするというコストをかけられない立場にいます。
基本的には自分で調べて、自分で手続して、どうしてもわからないところだけ顧問料の範囲内で外部専門家に聞くという感じです。
そのような業務をこなしていくためには、日頃から自発的に勉強する姿勢が必要になってきます。
社労士資格を持っていればベストですが、少なくとも社労士を目指す意欲があるくらい勉強熱心な人じゃないと、すぐに限界を迎えることになります。

3. ベンチャー労務で活かせる資格や学位

この点については社会保険労務士が最強です。
できれば持っていて欲しいですし、少なくとも全体を一通り勉強し終わっている人が就任すべきだと思います。
社労士試験で得た知識は、ベンチャー労務でもすぐに活かせますし、実務に直結している部分が多いです。
そのため、ベンチャー労務になるなら、まずは社労士を目指して勉強するべきだと思うほどです。
ただし、社労士試験は若干運ゲーの要素があるので、合格が必須というわけではありません。
予備校の講座を一通り終わらせていて、知識は十分にありますというだけでも結構有利になると思うので、勉強はしておくことを強くオススメいたします。

また、できることなら実務経験を3年ほど持った上でベンチャー労務に入る方が良いとも思っています。
というのも、前述のとおりベンチャー労務は少数精鋭なので、誰も助けてくれない環境になりやすいです。
そのような環境に実務経験が一切ない状態で入るとパニックになりやすいと思うので、様々なトラブルを経験した上で入ったほうがスムーズに業務をこなせるはずです。

その他の資格としては、日商簿記2級又は全経簿記1級レベルの会計知識があるととても重宝されます。
大手企業の労務だとあまり関係しないことも多いのですが、ベンチャー労務の場合は給与計算等で経理と連携することが多くなるので、最低限の会計知識がないと話についていけない状態になります。
簿記の基礎は抑えておいた方がビジネスマンとしても良いと思うので、取れるなら取ってしまった方が良いです。

もし先々CHRO(人事統括責任者)等を目指そうと思っているのであれば、マネジメント専攻又は人的資源管理論専攻などでMBA(経営管理修士号)を取っておくと有益かもしれません。
ここ数年で人的資源管理論が脚光を浴びていますが、まだしばらくは流行すると思うので、最低限の理論をMBAで学んでおけば、実務で少し活かせるかもしれないです。
ベンチャー企業によっては、福利厚生の制度設計を労務が担当することもあるので、知識を知っていて損はないです。
ベンチャー労務の転職でMBAが有利に働くかといわれるとまだなんとも言えない状況ですが、有名大学院であれば学歴と言う意味では極めて有益となります。

おわりに

ということで、今回はベンチャー労務について解説させていただきました。

労務は経営管理部門の中でも比較的マイナーな部署ですが、無くてはならない重要な存在です!
私は法務なので、労務の重要性をより強く感じています。
優秀な労務がいる会社は、様々な点でリスクヘッジが整えられていて、かつ、従業員のモチベーション管理のための制度も整っています。
そのような労務が一人いるだけで、会社全体としてどれだけ働きやすくなるか……

そういう労務に出会えることは滅多にない(転職市場になかなか出てこない)ので、見つけたら離さないようにしましょう!
ベンチャーに入ってきてくれる事自体奇跡に近いので、みんなでベンチャー労務を大事にしていきましょう。

では、次回は人事のお話をしたいと思います。
お楽しみに!

【お問い合わせ】

WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。

内容に応じて担当者がお返事させていただきます。

転職相談はこちら

コラムの関連記事

プラットフォーム型ビジネスモデルとは

エージェンシー問題とは

効率的市場仮説とは

経営戦略理論・RBVとは

三新活動とは

ビジネスモデルとは

集団浅慮とリスキー・シフトとは

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは

プロダクトライフサイクルの意味

ステークホルダーの意味や種類

沈黙の螺旋とは

PEST分析について

株式の制度やメリット

完全競争と不完全競争

M&Aの基礎知識

サーバントリーダーシップ理論とは

モラルハザードとは

経済学理論「逆選択」とは

情報の非対称性とは

組織心理学「PM理論」とは

パスゴール理論とは

心理学理論に基づくマネジメント

経営学の全体像

経営戦略の4つのレベル

経営戦略の4段階

高い業績を出す組織を作る方法

変革型リーダーシップ理論

カリスマ的リーダーの特徴

意思決定モデル4類型

組織内の「いじめ」対処法

科学的管理法と人間関係論

組織を崩壊させる「ゆでガエル理論」とは

ゲシュタルト心理学分野とは

権力の腐敗とは

組織内で起こる「同調現象」とは

マネジメントにおける「観客効果」とは

「自己検閲」と「マインドガード」

「集団極性化」とは

「傍観者効果」の危険性

「組織コミットメント」とは

モチベーションに影響を与える「心理的契約」

早期離職の心理学

早期離職を防ぐ可能性のあるRJP理論

サボる人間の心理学

職務特性理論とは

心理学に基づくストレス対処法

人事評価で気をつけたい認知バイアス

マネジメント理論「XY理論」とは

人材採用で気をつけたい「ハロー効果」

組織開発でも使える単純接触効果

ビジネスでも重要な恋愛心理学

ビジネスでも使える認知的不協和理論

ダニングクルーガー効果とは

極限の集中状態に入る条件

内発的動機づけの意味

「マジカルナンバー」とは

人事や採用担当が学ぶべき心理学

ベンチャー監査役の業務内容

ベンチャー内部監査で活かせる資格

ベンチャー総務の業務内容

ベンチャー人事の業務内容

ベンチャー労務に活かせる資格

ベンチャー法務に求められる能力

ベンチャーPR/IRの業務内容

ベンチャーの経営企画で活かせる資格

ベンチャー財務部の業務内容

ベンチャー経理経験の価値が高い理由

経営管理部門の採用の難しさ

応募が集まる求人票とは

職務経歴書の書き方とは

人材紹介という仕事に対する向き合い方

情シスのリモートについて

情シスで求められる志向性

年収から見た情シス市場の変化

ベンチャーにおけるCxOの役割

ベンチャー企業の基本類型

求人数から見た情シス市場の変化

M&A全体の流れ

5F分析とは

スタンドアローン問題

サンクコスト効果(コンコルドの誤謬)

SWOT分析とは

M&A契約の重要条項(前編)

M&A契約の重要条項(後編)

3C分析とは

ストックオプションとは

クラウンジュエル・ホワイトナイトとは

MBOとは

著者画像

株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

満足度98%のキャリアコンサル

無料カウンセリングはこちら