本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は「サンクコスト効果」「コンコルドの誤謬」について解説いたします。
サンクコスト効果(別名:コンコルドの誤謬)とは、投資の継続が損失の拡大につながると分かっていても、それまでに費やしたお金・時間・労力等を惜しんで投資がやめられない心理現象のことをいいます。
耳慣れない単語も多いと思いますので、一つずつ解説していきます。
まず「サンクコスト」とは、何らかの活動に投下した資金・労力・時間等のコストのうち、その活動を今すぐに中止しても、もはや戻って来ないコストのことをいいます。
そしてサンクコスト効果は、別名コンコルドの誤謬とも呼ばれています。
「コンコルド」とは、昔存在した超音速民間旅客機のことです。
コンコルドは、元々イギリスとフランスの航空会社が共同開発しようしたものでしたが、途中で開発費に莫大な費用がかかるということがわかり、かつ、他の航空会社からの注文もキャンセルになったので、採算が取れないということが確定してしまいました。
しかし、イギリスとフランスの航空会社はそれでも開発を継続して、最終的に大赤字を出してしまいました。
このことから、途中まで行ったことを止められない心理現象の名前の由来になっています。
なお「誤謬」は「ごびゅう」と読みます。
意味としては、誤りや間違いという意味です。
これで単語の意味はわかったので、事例について学んでいきましょう。
サンクコスト効果の事例についていくつかご紹介していきます。
大学受験、難関国家資格の受験等では、多くの人が長い時間と労力を費やして勉強をし続けます。
そして、それだけのコストを支払ったのであれば、当然リターン(合格)も欲しくなります。
その結果、途中で諦めるとか、落ちたら別の学校・資格で妥協するということが、心理的にしづらくなっていきます。
難関大学の医学部や難関国家資格界隈ではけして珍しくない存在として、10年以上医学部浪人を続けている人や20年近く同じ国家資格を受け続けている人などが存在します。
長くやればやるほど、サンクコストが蓄積されていくので辞められなくなるのです。
恋愛もサンクコスト効果の代表例の一つです。
恋愛にのめり込んでしまった結果、本来であれば絶対に使わないであろう無駄遣いをし、相手に大金を貢ぎ、時間と労力をかけてしまうことがあります。
そのコストが高ければ高いほど、相手に執着し、諦めることができなくなっていきます。
本人にとってあまりにサンクコストが大きい場合は、ストーカー規制法違反を犯してしまうことすらあります。
それによって人生を終了させてしまうこともあるので、注意が必要な事例といえます。
新規事業もサンクコスト効果が発生しやすい事例です。
CEOが「この事業は成功する」と思って始めた事業であっても、実際にやってみると意外と儲からないし、競合も多く存在したということがわかったとします。
その時点でその事業から撤退できる経営者は極めて少数です。
経営者の多くは楽天家なので、何とかして競合に勝つ方法を見つけようとしますし、長くやっていれば成功するという思い込みをします。
その結果、サンクコストが増大していき、どう足掻いても損失が出るという状態に陥ります。
ベンチャー業界でもよく目にする事例です。
最後に、M&Aの事例を挙げます。
M&A取引では、買手又は売手を一生懸命探索し、やっとの思いで見つけた後に交渉に入り、膨大な資料をかき集め、読みこなし、分析し、相手方と交渉をして、少しずつ少しずつ手続が進んでいきます。
双方が膨大な時間と労力を費やすので、サンクコストが溜まっていき、いつの間にか「この取引で失敗するわけにはいかない」という気持ちになっていきます。
ここが失敗の原因で、M&Aの本来の目的を見失い、M&Aを成立させること自体が目的化していきます。
その結果、明らかに失敗しそうなM&Aであっても契約を進めようとします。
M&A実務で特に注意しないといけないサンクコスト効果の事例です。
サンクコスト効果の防止法についても考えてみましょう。
サンクコスト効果は、以下の2つの条件が揃った場合に発生します。
この条件を成立させなければ、サンクコスト効果が発生しづらくなるはずです。
以下、条件それぞれについて検討してみましょう。
行動経済学の分野では有名は話ですが、人間は損をすることを極端に嫌う動物です。
それゆえに、一度大きなコストをかけてしまったことについては、何が何でも取り戻したいという気持ちになってしまいがちです。
ということは、そもそも大きなコストをかけないことが重要だということになりますから、大きなコストをかける前にまずは小さく投資してみるという方法が効果的であると考えられます。
小さく始めて大きく育てる(スモールスタートグロースビック)方式で投資を行えば、損失を最小限に抑えつつ、挑戦をすることができます。
新規事業では特にこの発想が重要で、7割程度の確度を持って勝てると思えない限りはスモールスタートを心がけるべきです。
そして、要所要所で小さくリターンを獲得できるような仕組み(逃げ道といっても良いです)を考えてから、投資を実行すべきです。
途中でリターンが一切得られないようなものに投資をするのは、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルに近いものなので、サンクコスト効果が発生する可能性が極めて高い行為です。
大きなコストをすでにかけてしまっていて、今止めたとしても損失が発生する可能性が高いという場合、多くの人がほとんど無い可能性に縋って、何とかして希望を持とうとします。
この活動・事業を続けていれば、いつか芽が出るのではないかと期待するのです。
このような期待は、人間であれば通常は出てきてしまうものなので、完全に抑制することはできません。
そのため、投資を行う前の段階で、厳格な撤退基準を定めておくという方法を採るべきです。
どのような理由があろうと、撤退基準に到達してしまった段階で撤退するというルールにしておけば、損失を想定の範囲内で抑えることができます。
ただし、この撤退基準すら守れない場合は、より大きなサンクコスト効果を発生させることになりますので、最終的には本人の意志の強さ(撤退のルールを守れるかどうか)が重要になってきます。
ということで今回はサンクコスト効果(コンコルドの誤謬)について解説させていただきました。
人生においても、ビジネスにおいても、日々発生している現象なので、防止法を知っていれば対応可能です。
もし自分又は自社において発生している場合は、本記事の内容を思い出していただいて、何とかしてサンクコスト効果を抑え込んでください。
それでは今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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