ベンチャー企業で専任の法務担当者を置いている会社は多くはありません。
しかし、IPOの準備段階に入った辺りからは専任の法務担当者を置かないといけなくなります。
そのときにどのような人を採用すれば良いのでしょうか。
そして、そもそもベンチャー法務とはどのような業務を担当し、どのような能力が必要なのでしょうか。
これらの点について、ベンチャーの現役法務担当者が解説していきます!
ベンチャー企業が拡大期に入ると、契約数が急激に増加します。
それに伴って、社内の法務事務や法務問題も一気に増加するため、総務や事務担当者だけでは処理しきれなくなってきます。
その頃になると、多くのベンチャー企業が専属の法務担当者を探し始めます。
しかし、いざ法務を雇おうと思っても、どのような人を雇えば良いのかわかりませんし、どのような業務を任せるべきなのかも正確に把握するのは難しいと思います。
というのも、ベンチャー企業の法務は、まだ業務内容が明確に決まっているわけではないため、ゼロから様々なものを創造していく力が必要になって来るからです。
理想をいえば、何も言わなくても勝手に社内の状況を把握して、必要なことをやってくれる法務がベストですが、そのような人材は転職市場にはほとんど存在ません。
そのため、企業側としては、ある程度やってほしいことを定義しないといけませんし、転職者側もベンチャーの法務という特殊性を理解した上で転職をする必要があります。
そこで今回は、様々なベンチャー企業で法務を担当してきた私が、ベンチャー法務の業務内容や必要な能力、活かせる資格などについて解説させていただこうと思います。
一法務の私見ではございますが、誰かのお役に立てれば幸いでございます。
まずはベンチャー企業の規模に応じて、法務が必要になる段階について話していこうと思います。
創業間もない段階のスタートアップ期では、正直に申し上げて法務は必要ございません。
現実的な問題として、雇う余裕はないだろうと思います。
ここ15年ほどの話で、司法試験が実質的に簡易化されたため、弁護士の数が異常に増えてしまいました。
そのおかげもあって、昔であれば弁護士になれなかったであろう人でも弁護士になれる時代が来て、弁護士が若干余り気味になってきております。
そのため、スタートアップであっても顧問弁護士を比較的簡単に見つけられるような状態です。
安いところであれば月5万円程度で顧問弁護士になってくれる人もいますから、スタートアップ期ならそれで十分に機能すると思います。
スタートアップ期はまだ契約書の数も少ないですし、法務業務そのものがほとんど発生しないため、必要に応じて顧問弁護士に依頼するという外注方式で事足りると思います。
もしくは、社内の少し法律を知っている人でも対応可能でしょう。
そこまで難易度の高い法務業務も発生しないはずなので、自分でググれば大抵のことは解決可能です。
ただし、資金調達に関する法務だけは、必ず専門の弁護士に依頼しましょう。
初期段階の資本政策ほど重要なものはありませんし、ここで失敗すると取り返しがつかないので、創業者は自己の保有割合をしっかりと確保するために、ベンチャーの資金調達に詳しい弁護士をアドバイザーにつけて資金調達に臨みましょう。
できれば、資金調達に詳しい公認会計士もアドバイザーにつけておくべきです。
たとえスタートアップ期でお金が無かったとしても、この点に関してはだけはコストをかけるべきだと思います。
スタートアップ期を無事に通過して、プロダクトやサービスがローンチされ、ある程度事業が形になってきた段階ぐらいから、法務業務が増加し始めます。
この時期になってくると、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資も受けることが多くなるため、IPOを意識し始める時期でもあります。
IPOの準備をし始める際には、どうしても内部統制を整えないといけないため、社内に専属の法務を置かないといけなくなってきます。
かなり優秀なCFOなどがいれば、自分で法務もできてしまうこともあるのですが、それは例外的な話で、原則は法務専任者が必要です。
この段階で初めて採用を検討すれば良いと思います。
目安としては、以下の条件が揃ってきたら、採用を検討すべき時期です。
これらの条件が揃って、法務1名分の作業工数になったと感じれば採用すべきです。
ただ、単なる法務事務の増加でしかないときは、法務の派遣社員を雇ったり、総務の方にお手伝いいただいたりして解決可能かもしれません。
このあたりは自社の状況を分析して、判断しましょう。
いざ拡大期に入り、IPOの準備を進める段階で法務を雇うことになったとします。
このときに、どのような法務を雇えばいいのでしょうか。
この点について、ベンチャー法務の業務内容という視点から見ていきましょう。
まず、ベンチャー法務の特殊性として、大手企業の法務とは管轄領域が異なる場合が多いという点を把握しておきましょう。
大手企業の場合、法務部員が何名も在籍していて、それぞれが細分化された業務を担当しています。
例えば、大手証券会社には、社内で使用する広告(WEB広告やチラシなど)が景表法に違反していないかどうかを判断するだけの人が何名かいます。
一年中それだけをやるわけです。
他にも、特定の部署の契約書だけを見る人やNDAだけをひたすらチェックする人など、細分化された業務をひたすら処理するという、いわばスペシャリスト型の人材が多いです。
とても効率的な組織ですし、特定の業務に特化できるため新卒であっても数年で一人前になれます。
しかし、ベンチャー法務にはそんな立派な教育環境は用意されておりません。
原則として1名体制ですべての法務業務を処理しなければなりません。
経営管理部門にコストをかけているベンチャーであっても、法務が2~3名(事務員さん含む)いればだいぶマシな方です。
かなり規模が大きくなったベンチャーでもない限りは、超少人数制で法務業務を処理していきます。
ちなみに、筆者が所属しているWARCも法務専任者は私だけです。
契約書の発送業務等の法務事務については、それぞれの部署のサポーターの皆さんや総務の皆さんにご協力いただいておりますが、法務業務については私のみで対応します。
それがベンチャー法務の普通です。
そのため、ベンチャー法務の管轄領域は、原則として経営全体に及ぶことになります。
ベンチャーの法務担当者になると、社内で発生するすべての契約書に目を通すことになりますし、資金調達やM&A、IPO準備や各種登記、組織再編、融資・出資、社内トラブル、その他法務相談すべてが自分の管轄領域になります。
ベンチャーの法務は基本的に1人しかいませんから、頼れるのは自分だけです。
だからこそ、常に勉強をし続けないといけない立場になります。
おそらく、すべての業務に関する知識をしっかり学ぼうと思ったら、賢い人でも5年くらいはかかると思います。
そして、経営全体に関する法務業務を処理する場合、従業員としての立場だけで見ていると、判断を誤ることが多くなります。
もちろん法務も従業員ではあるのですが、一旦それを置いておいて、自分が経営者だったらどうするかという、経営者的視点を持って、全体を見て意思決定しないといけないのです。
自分がチェックする契約書が、派生的に経理・財務・労務・事業部などに影響を与えるわけですから、経営全体を見て、支障がないようにしないといけません。
これは契約書以外の法務業務を処理する場合でも同様です。
部分最適で判断するのではなく、常に全体最適を考えて意思決定を行うべきです。
ただ、これができる法務は非常に少ないのが現状です。
そもそも、社会人になっても勉強を続けられる法務自体少数派です。
前述のとおり、ベンチャー法務の管轄領域は経営全体に及びます。
しかし、最初からそれらすべての業務を処理できるはずがありません。
若手の法務ならば尚更です。
そこでまずは、予防法務という観点から業務を遂行するようにしましょう。
予防法務とは、将来における法的問題を未然に防ぐための法務業務です。
ベンチャー法務になったら、自分の身を守るためにも、そして会社を守るためにも、予防法務を極めましょう。
予め法的問題が発生し辛い状況を作り出してしまえば、後々面倒な処理をする回数が減ります。
若手法務にとってはとても大事な観点です。
例えば、以下のような業務はすべて予防法務に含まれます。
etc...
これらの業務をきちんと処理できるならば、法務部員としてはかなり優秀な方ではないかと思います。
すべてできている人はほとんどいないかもしれませんが、大手弁護士事務所から転職してきた人は大抵できていますので、一流の法務専門職の中ではおそらく常識的なレベルなのだろうと思います。
そしてできれば、それぞれの業務を処理するとき、改めて全体最適を意識するようにしてみてください。
多くの法務部員を見てきて思うことなのですが、やはり法務は全体を見るのが苦手な人が多いです。
法務としての視点だけで業務を遂行してしまうことが多いため、全体としてみるとあまり良い選択ではないと思えるような処理をしてしまっています。
例えば、上記業務の中で、各種契約書の雛形作成や利用規約の作成などを行う場合、自社のリスクを抑えることに集中しすぎて、取引先からどういう印象を持たれるかという視点が抜け落ちてしまっていることがあります。
両者のバランスを考えて、双方にとって程良い内容に落ち着かせることを意識しましょう。
事業部からの強い要望もあると思うので、すべて法務の思い通りというわけにはいきませんが、できる限り折衷的な内容に収めるべきです。
一方的な内容を詰め込みすぎると、知らず知らずのうちに契約の相手方からの印象が悪くなっていき、最終的には業績の悪化を招きます。
私自身、法務として契約書をチェックするとき、あまりに一方的な内容を送ってくる会社との取引は極力控えるように促すので、そうやっていつの間にか取引先から敬遠される存在になってしまいます。
それでは本末転倒だと思うので、極力バランスの良い規定を心がけましょう。
また、上記の業務の中で「自分の知らない法分野の学習」も極めて重要です。
これは主に業務時間外に自主的に行うものなので、直接的にはお金にならない行為です。
むしろ書籍代などを考えるとコストがかかります。
しかし、法務という専門職として、第一線で活躍し続けるためには必須の業務です。
今の会社に定年まで居続けるわけではないと思うので、将来のキャリアのために、日頃から学んでおきましょう。
それに、ベンチャー法務として生きていると、ある日突然知らない法分野の業務が降りてきます。
それはCEOの思いつきかもしれませんし、事業部で起こったトラブルかもしれません。
ベンチャーの世界では、変化こそが日常なので、突然忙しくなるものです。
そうなってから学び始めても、大抵は遅すぎます。
優秀な法務は、何事も先回りして学ぶ傾向があるので、もし法務として出世していきたいのであれば、日常的な学習が必要不可欠です。
場合によっては大学院等で研究を行っても良いと思いますし、各種の法学セミナーに出席しても良いと思います。
方法は自由なので、常に学習する癖をつけておきましょう。
それがきっと、自分の将来のキャリアをより良いものにしてくれます。
ベンチャー法務の中でも、稀に最高峰に達している方たちがいます。
十中八九弁護士資格を持っている方々ですが、彼らは取締役又はCLO(Chief Legal Officer)などに就任しています。
このレベルの人たちは何をやっているのかというと、主に戦略法務を担当しています。
戦略法務とは、会社としての経営戦略に関わるような大きな事案にかかわる法務業務のことを意味します。
例えば、極秘のM&Aディールを処理することや大規模な組織再編を行う業務などが該当します。
その他にも、以下のような業務は戦略法務に位置づけられます。
上記の例示を見てわかるとおり、経営上極めて重要な案件に関する業務が戦略法務です。
大抵の場合、外部はおろか社内にもほとんど知っている人がいないような案件なので、経営陣とのやり取りが多くなります。
場合によっては経営会議や取締役会にも出席することになるので、経営者の一人として活動することが求められます。
ベンチャー法務としてここまで到達できれば、とても立派なことだと思います。
ベンチャー法務として活動していると、年に数回は紛争対応をしないといけません。
このような紛争処理業務を「臨床法務」ということがあります。
紛争には大小様々な事案があり、場合によっては訴訟案件に発展していきます。
そして、若手の法務がよくやりがちなミスとしては、臨床法務業務をすべて自分だけで解決しようとすることです。
もちろん、事案によっては単独処理も可能な場合もありますが、大抵はそう簡単にはいきません。
むしろ、優秀な法務ほど外部の専門家を上手に使いこなします。
どのような事案のどのような業務を外部に振るべきかという判断ができる法務は、とても優秀です。
臨床法務はスピードも重要になってくるので、意思決定の迅速性も要求されます。
このあたりは実務経験が豊富な弁護士の方が得意分野なので、ある程度事実関係を確認した後は、任せてしまった方がスムーズです。
ベンチャー法務としては、日頃から優秀な弁護士との繋がりを保ち、いざというときに依頼しやすい関係性を築いておくことが重要です。
法務人材の価値は、どの領域の問題で誰を頼れば良いのか、誰が何を知っているのか、ということをどれだけ理解しているかで決まると言っても過言ではありません。
外部専門家と上手く連携して、一つずつ解決していってください。
長くなってしまったので、まとめましょう。
まず、法務の管轄領域は、経営全体及びます。
そして、法務の業務には以下の3つの業務が存在します。
このうち、ベンチャー法務がまずやるべき業務は「予防法務」です。
予防法務が完璧にこなせていれば、法的問題はほとんど発生しません。
そして、自己研鑽を怠らず、日々学習に励みましょう。
最終的には「戦略法務」までできるようになれば、立派な法務プロフェッショナルです。
また、突発的に発生する「臨床法務」については、外部の専門家を頼りましょう!
その際、外部専門家が行った処理方法や手順については必ずメモを残してあとで復習しておきましょう。
次回以降は自分で出来るようになる業務も多いと思うので、会社のコストをかけた分、自己の血肉としましょう!
では、ベンチャー法務に向いている人はどのような人でしょうか。
この点について私見を述べさせていただこうと思います。
まずは何と言っても「精神的タフさ」が必須です。
ベンチャー法務の離職率はけして低くありません。
むしろ他の専門職と比べて高い方だろうと思います。
というのも、ベンチャー企業の特性と法務の特性の相性が若干悪いからです。
まずベンチャー企業の特性として、迅速な意思決定が挙げられます。
この迅速な意思決定というものは「正確な意思決定」を意味しません。
つまり、間違っていても、たとえグレーゾーンであっても、基本的にはGOです!
事業を前に進めるということだけは確定していて、あとは「どうやってやるか」だけの問題なのです。
そのため、止まるとか、中止するとか、断念するという概念が欠如していることが多いです。
一方で、法務というのは、リスクを最小限に抑えることを主とする専門職です。
様々な選択肢のリスクを推し量り、最もリスクの低い選択肢を選ぶ、という活動を得意としています。
そのため、原則として意思決定に時間をかけますし、過度なリスクを避けようとする傾向が強い職種です。
この相反する特徴を持っている両者が一緒に働くというのはなかなか難しいことで、事あるごとに衝突してしまいがちです。
その結果、ベンチャー法務の離職率は比較的高い状態になります。
私自身、比較的長い期間ベンチャー法務として活動していますが、未だに「このリスクを取るのか?正気か?」と思うことがあります。
私は自分自身を比較的リスクテイクしていく性格だと思っていますが、それでも怖いと感じるくらいの選択をするのです。
それがベンチャー企業の通常運転です。
だからこそ、ベンチャー法務になるなら、最初からタフなメンタルを鍛え上げてから入った方が良いと思います。
理想をいえば、起業家精神を持った人です。
そういう人であれば、ベンチャー法務に向いていると思います。
そして「勉強が大好き」であることも必須だと思います。
大手企業の法務の場合、私の知る限りではそこまで勉強しなくても業務はこなせます。
特定の分野の法令だけある程度勉強しておけば、特段困ることもないと思います。
大手の場合、法学部を出ていなくても普通に法務になれることも多いので、視点を変えれば法学知識を少し学べば業務を処理できるように仕組み化されているのです。
それが大手の素晴らしいところです。
もちろん、管理職になってくると広く勉強しないといけませんが、それでもそこまでの勉強量は必要ないと思います。
現に私の知り合いの大手企業の法務管理職の方々の大半は、そこまで勉強をしておりませんし、知識もそこまでありません。
しかし、ベンチャー法務の場合はそれだと困ることになると思います。
ベンチャー法務の多くは、極めて少数のメンバーで業務をこなしているため、法律で知らないところがあったとしても、気軽に聞ける相手が存在しないのです。
社内で法律に詳しいのは自分だけというケースが多いので、頼れるのも自分だけです。
そういう環境で長く生きていこうと思ったら、勉強はし続けた方が良いです。
それが自分の身を守る手段になりますし、キャリア的にもプラスになると思います。
ベンチャー法務の全員が、学習意欲も高いのかと言われるとけしてそうではないのですが、優秀なベンチャー法務はほぼ例外なく勉強家です。
毎年大量の書籍を読み、新しい知識を仕入れています。
トップ層に関しては、有名な法律事務所の弁護士と比べても、そこまで大差はないほど勉強していると思います。
全員がそのレベルを目指すべきとは言いませんが、少なくとも業務で困らない程度には勉強をしておくべきだと思います。
そういう学習が苦にならない人は、ベンチャー法務に向いています。
次に、ベンチャー法務として持っておくべき能力について述べていきます。
この点についてはまず「論理的思考力」を持っていた方が業務を遂行しやすいかと思います。
企業の内部で法務業務を行う場合、大きく2つのカウンターパート(相手方)が存在します。
一つが経営管理部門のメンバーです。
その中でも、経理・財務・CFOとの対話が比較的難易度が高く、依頼される業務も難しいものが多いです。
私自身、今もWARC(このメディアの運営会社)に所属しておりますが、このWARCという会社はベンチャーのCFOとしてIPOを達成した公認会計士らが創業した会社です。
そのため、社内にも沢山の公認会計士・税理士・会計専門職が在籍しています。
日々彼らと対話していて思うのですが、会計専門職の皆さんは、極めて論理性の高い民族です。
一般的な法務と比べるとかなり差があると感じます。
しかも、会話のスピードが異常に早いです。
基本的に2倍速くらいで会話している感じだと思ってください。
そして、WARCの社内にいる公認会計士らは、監査法人や外資系コンサルティングファームの出身者なので、尚の事ロジカルです。
そのため、一瞬でも気を抜いたら違う論点の話に切り替わっています。
そういう人たちと対等に話すためには、こちらも相当に訓練を積んで、論理的思考力を磨いておかないといけません。
最近のベンチャーには、優秀な経理・財務・CFOがいることが多いので、彼らと同じ速度で会話ができるように、日頃から訓練を積んでおいた方が良いでしょう。
もう一つのカウンターパートは、事業部の責任者たちです。
ベンチャーの法務担当者になると、ほぼすべての事業部の責任者と対話する機会が増えます。
事業部で発生する法的な問題は、すべて自分のところに流れてくると思ってください。
そのとき、事業部長クラスの人たちの会話速度についていかないといけないので、ここでも論理的思考力が試されます。
事業部のビジネスモデルを正確に理解し、相手が不安に思っている論点を的確に抽出して、解決策を提示できないといけません。
法務担当者として信頼を得るためにも、日頃から思考訓練を積んでおくべきだろうと思います。
そして、ベンチャー法務として持っておくべき能力がもう一つあります。
それが「コミュニケーション能力」です。
多くの法務担当者にとっては、この能力が最も身につけ辛いものかもしれません。
我々法務人材の多くは、勉強は比較的得意なのですが、人様と上手にコミュニケーションを取ることは苦手です。
たまに自覚がない方もいらっしゃいますが、半数以上の法務はコミュニケーションが下手な方に属すると思います。
だからこそ、意識的な努力が必要です。
法務として当たり前の表現方法でも、一般の人から見ると異常な言葉選びだったり、失礼な表現だったりします。
場合によっては偉そうに他人の間違いを指摘してくる嫌な奴という捉えられ方をすることも多いので、細心の注意を払って言葉を選ばないといけません。
そして何より、法的な論点や解決策をわかりやすく伝えられる話術が必要です。
最近のベンチャー企業の多くは、リモートワークを取り入れているため、直接会って話す機会は減りましたが、その分チャットによるコミュニケーションが増えたため、文章力が必要になってきています。
相手が一発で理解できるような文章を書くという能力も、コミュニケーション能力の一つですから、日頃から意識的に鍛えておきましょう。
最後に、ベンチャー法務としてあったら嬉しい能力について述べていきます。
この能力については、若い頃にあったら嬉しいという程度ではありますが、優秀なベテラン法務は大抵持っているので、最終的には身につけたほうが良い能力です。
その能力の1つ目は「適当さ」です。
これは「テキトー」に仕事をしろということではなく「妥当な塩梅を目指す」というニュアンスです。
そもそも、法務といえば、真面目で、細かくて、神経質で、融通が利かない面倒くさい人というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
自己を振り返ったとき、実際そのとおりだなと思うことも多々あります。
しかし、優秀なベンチャー法務は良い意味で適当なんです。
そもそもベンチャーにおいては、あまりに細かくキッチリやろうとするのは妥当ではありません。
おそらく他のメンバーとの間に軋轢が生まれて、ろくに仕事ができないという状態になります。
それでは本末転倒です。
ベンチャー法務としては、程よく適当な塩梅を見つけないといけません。
完璧な状態を目指すのはIPOの準備を進めていく中で少しずつ構築していけば良いことです。
最初からフルスロットルでキッチリやるのではなく、徐々に少しずつ内部統制を整えていくイメージです。
そういう段階的適当さを持ち合わせていれば、働きやすくなると思います。
そして、あったら嬉しい能力の2つ目は「責任感」です。
私は、責任感は能力の一つだと思っています。
というのも、人間というのは自己の守備範囲でしか責任を取れないため、一部の例外を除いて、人の責任感はその人の守備範囲に依存すると考えているからです。
つまり、責任感が強い人というのは、自分の解る範囲、守れる範囲を広範に保てている人で、常に能力を高めようと努力している人だと考えています。
現にベンチャー法務の世界で、責任感が強く、リーダーシップがある人というのは、能力がとても高いです。
自分で理解できる範囲がとても広いので、起こりうるリスクを正確に予見できます。
そのため、法務として「この範囲までは私が責任を取るので、進めましょう」といえるのです。
これができるかどうかで、法務としての信頼性が全然違うので、持っていたほうが良い能力だなと感じています。
優秀な法務から「大丈夫ですよ。何とかします」って言われたら安心するじゃないですか。
事業部にとって、そういう存在でありたいですよね。
では最後に、ベンチャー法務で活かせる資格や学位について解説させていただきます。
といっても、法務としての最高峰は弁護士なので、弁護士資格が最強です。
今は司法試験もだいぶ優しくなって、合格率も上がっているので、今から目指すというのは一つの正解かもしれません。
ただし、学費は無駄にかかるので、もしロースクールに行くなら国立にしましょう。
そして、単に弁護士資格を持っているというだけでは弱いです。
すでに多くの皆さんが気づいているでしょうし、感じていることだと思いますが、同じ弁護士資格保有者でもかなり大きな能力差が存在します。
上の方の弁護士と、下の方の弁護士では、全く別物です。
そもそも弁護士にも専門分野があるので、全員が企業法務を専門にしているわけではないのです。
それゆえ、弁護士資格を持っていたとしても、おそらく半数くらいの弁護士は法務として活躍は難しいです。
法務として十分な働きをするためには、企業法務の経験又はインハウスの経験が3年以上ほしいところです。
弁護士資格を持っていて、企業法務の実務経験が3年以上あれば、転職で困ることはまずないと思います。
その他、弁護士資格以外で活かせる資格はかなり少ないですが、以下のような資格だと活かせるかもしれません。
上記いずれにしても、法務の実務経験がないとそもそも応募ができないというケースが多いので、まずは何とかしてどこかの法務に滑り込ませてもらって、実務経験を得るべきだと思います。
経営管理部門の中で、最も実務経験に執着している職種が法務だと思うので、資格・学位と同時進行で知り合いなどをつたって滑り込ませてもらえそうなところを探したほうが良いと思います。
3年以上の経験を積めば、比較的簡単に転職もできるようになります。
ということで今回は、ベンチャー企業法務という、少し変わった職種について解説をさせていただきました。
これから法務を目指す若手の皆さんや、これから法務を採用しようとしているベンチャーの皆さんの参考になれば幸いでございます。
今の時代にベンチャー法務として活動していきたいという奇特な方は少ないと思いますが、ベンチャー業界に長くいる私としては仲間が増えると嬉しいので大歓迎でございます。
ちょっと特殊な世界なので、向き不向きがとても強く出る世界ですが、慣れてしまえば良さもたくさん見えてきます。
若手の皆さんがベンチャー法務に少しでも興味を持ってくださることを祈っています。
では次回は「労務部」についてお話したいと思います。
お楽しみに!
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。