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コラム
2024/10/30 更新

ベンチャーにおける部下のマネジメントスキルを解説

はじめに

今回は、ベンチャーにおける部下のマネジメントについて書かせていただきたいと思います。

なお本記事でいう「マネジメント」というのは、上司と部下が信頼関係で繋がって、双方の意志に基づいて良好なチームを形成することを意味します。
そのため、けして部下を思い通りに動かすことを意味しません。

マネジメントの意義は、ベンチャーという特殊な組織においてはとても重要なことだと思いますので、一つずつ丁寧に書いていきたいと思います。
参考になれば幸いです。

1.相互理解

ベンチャーにおける組織マネジメントが上手く行っていないケースの8割くらいはコミュニケーション不足による相互不理解が原因です。
そこでまずはコミュニケーション量を増やして相互理解を図る必要があります。

しかし、ここでマネジメントの適性に関する問題が出てきます。

具体的には、肩書や役割はマネジメント層の人なのに、その人自身にマネージャーとしての適性がないという事例です。
これはどこのベンチャー企業でも頻繁に発生している論点だと思います。

そもそもベンチャーで優秀な人というのは、タスク処理が早い人であることが多いです。
そして、タスク処理が早いということは、長時間集中して物事を処理できるということであり、その分コミュニケーション能力が足らないということが多くなります。
その結果、良いプレイヤーが良い教師(マネージャー)であるとは限らないという現象が起きます。

業務に集中する時間が長ければ長いほど、通常は部下とのコミュニケーションが減っていきますから、部下は上司が何を考えているのかわからなくなります。
その上、タスク処理が早い上司ほど、部下の処理能力や処理スピードに不満を抱えがちなので、最終的には自分で処理しようとします。
その方が早く仕事が終わるので効率的だと考えるのです。
これを繰り返すことによって、部下は「自分は信頼されていない」「自分は上司から評価されていない」「自分は必要とされていない」と感じやすい状況が生まれます。

このような状況が組織内に蔓延していくと、組織全体が弱体化していき、一部のスタープレーヤーに依存する属人的組織になっていきます。
ベンチャーではそれで良いのだという考え方もあると思うので、その場合は突き進んで良いと思います。

一方でチームマネジメントをしっかり行って、先々の組織の大型化のためにマネージャーとしての能力を身につけたいと思うのであれば、考え方を改めないといけません。
大型の組織のマネージャーは、一人一人の貢献度を最大化し、一人では成し得ないようなことを組織として達成するため存在しています。

そして、一人ひとりの貢献度を最大化するためには、各人の個性や特性をよく理解する必要があります。
したがって、マネジメントの第一歩は、部下の特性を徹底的に把握することです。

部下がどのようなことにインセンティブ(動機づけ)を持っているのか、どういう価値観を持っているのか、どういう能力・特技・弱みを持っているのかを理解しないと、マネジメントはできません。

しかし、部下のことばかり根掘り葉掘り聞いてはいけません。
部下側が心を開いていない状態でプライベートなことにまで質問をしてしまうのは単純に危険です。
場合によってはセクハラやパワハラになってしまうので、まずはマネージャー側から自己開示を行ってください。

上司側から、真摯に部下に向き合って、自分の価値観や考え方を共有しましょう。
その際、チーム内の相互理解を深めることを目的としている点をハッキリと述べてから自己開示を行う方が良いでしょう。

そして、相手に開示を強制しないことも大切です。
相手が話したくないなら話す必要はないという前提をしっかり伝えて、それを守ってください。
部下にとって、話したくもないのに強制的にプライベートの話をさせられることほど不快なものはないので。

このように、マネージャー側が誠実かつ真摯に自己開示を続けて、部下が徐々に心をひらいてくれたのであれば、マネジメントの土台が完成します。
最初の一歩から難易度が高いですが、ここがすべての基礎になるので頑張るしかありません。

2.心理的安全性の確保

相互理解がある程度進んだら、心理的安全性を確保しましょう。

心理的安全性とは、元々“psychological safety”という単語で組織論や組織心理学、リーダーシップ論などで用いられてきた言葉です。

誰が最初に言ったかはわかりませんが、私が知る最古の論文は1999年にハーバード大学の教授であるエイミーエドモンドソンが発表した“Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”という論文の中に出てきています。

https://cir.nii.ac.jp/crid/1573105975715889920

この論文では、心理的安全性を以下のように定義しました。

“Team psychological safety is defined as a shared belief that the team is safe for interpersonal risk taking.”

(訳:チーム内において自分が対人関係上のリスクを冒しても安全だと信じられる共通の信念)

要するに、チーム内のメンバー全員が『チームのことを想っての発言ならば、ある程度批判的な発言をしても大丈夫だ!』と思っている状態のことです。
これが実現されると、チーム内の各メンバーが建設的な意見を出し合える土壌が整うので、組織的一体感が醸成されやすくなります。

そして、組織的な一体感がでてくると、業務の効率性も向上することが多いので、心理的安全性を確保しておいた方が良い組織を作りやすいと言って良いかと思います。
この心理的安全性を構築していくためのプロセスは様々ですが、一つの参考例として、以下の手順を挙げておきます。

  1. 上司側から自己開示を行う(前項で述べた内容)
  2. 部下の意見をしっかり聴く
  3. 意見を言ってくれたこと自体に心からのお礼をいう
  4. 部下から得られた良い意見を組織運営に反映させる

以下、それぞれ簡単に解説いたします。

まず、1.上司側からの自己開示については前項で述べたとおりです。
上司側から行うことで、部下も少しずつ心を開いていってくれると思います。

次に、2.部下の意見をしっかりと聴くことについては、単に聴くだけでは不十分です。
部下側からすると、上司がいる場で自分の意見をいうというのはとても勇気が必要となる行為です。
そのため、発言が上手ではないこと、論理展開がおかしいこと、どもることなどがよくあります。
それに対して一切の否定的意見を言わないことが重要になってきます。
聞き取りにくい場面も多々あると思いますが、追加質問などを丁寧に行い、部下の意見の本質的な部分を理解するように努めてください。

そして、3.意見を言ってくれたこと自体に心からのお礼をいうことについては、そのままの意味です。
前述のとおり、部下は勇気を振り絞って意見を言ってくれているので、そのことについて感謝を述べておいた方が、心理的安全性を確保しやすいです。

最後に、4. 部下から得られた良い意見を組織運営に反映させることについては、できる範囲で反映させれば良いと考えています。
部下の意見がすべて正しいとは限らないので、全体最適を考えて「良い案」と思われるものを採用する形で十分だと思います。

そして、できれば採用した意見については部下に結果報告をした方が良いです。
部下にとっては自分の意見を聴いてもらえた上に、組織運営に参画できたという自信に繋がるので、その繰り返しによって心理的安全性が確保されていきます。

心理的安全性の確保は時間がかかるので一朝一夕では実現できませんが、地道に頑張っていきましょう。

3.部下の個性に配慮したタスク振り

相互理解が深まり、心理的安全性もある程度確保されたら、次にやるべきことは適切なタスク振りです。
部下にタスクを振り分ける時、自分の視点だけでタスクを振るのは避けた方が良いです。

大事な視点は、部下の利益になるかいなかです。

ベンチャーでは、日々大小様々なタスクが発生します。
その中で、新しい経験や知識が得られる貴重なタスクの数は限られています。
優秀な部下であればあるほど、その貴重なタスクを欲しがります。

そして、誰にとってどのタスクが貴重なタスクとなり得るかは、それぞれの志向や個性によって異なります。
だからこそ、タスクを一つ一つ分析し、部下の利益・インセンティブに適合しているかを考えましょう。

ここで活きてくるのが前2項までにお話した相互理解の深さです。
相互理解が深いと、誰がどんな夢を持っていて、将来どういう人物になりたいのかがわかるようになっているはずです。
その夢や志向に貢献するようなタスクを部下に振り分けられれば、部下のモチベーションも上がりやすくなります。

そして、できればタスクを振るときに、そのタスクから得られる知識や経験を説明し、どのようなメリットがあるかを示した上で「このタスクをお願いしてもいいですか?」と聞いてあげると良いです。

ただし、既存のタスクの全体量には配慮してください。
ベンチャーには年齢が若い人が多いので、自分の限界値を知らないことが多いです。
そのせいで処理時間の見積もりも甘くなりがちなので、上司側が既存タスクの全体量を把握することは必須です。

仮に振ったタスクを処理できなさそうだなとなったら、既存タスクの内、重要度の低いもの(雑務)をマネージャーが引き取ってください。
部下の成長のために貢献するのがマネージャーの仕事ですから、雑務は本来マネージャーの仕事です。

このようなタスクの振り方は、最初のうちは上手にできないかもしれません。
しかし、何ヶ月も継続して挑戦していれば、自然に部下の個性に配慮したタスク振りができるようになると思うので、根気強く続けてみてください。

4.責任は上司が取る

マネジメントで極めて重要な論点は、責任の所在です。

マネジメントが上手く行っていない組織の多くは、上司が責任から逃げようとしていることが多いです。
その結果、本来上司が取るべき責任を押し付けられたと感じた部下がモチベーションを失っていきます。
このような組織は健全ではないので、上司としての立場にいる人は、積極的に責任を取る姿勢を示すべきです。
部下に対して、責任は自分が取ると明言して、その姿勢を崩さないことが重要です。

たしかに、他人(部下)の行動の責任を自分が取るというのは非常にリスクの高い行為ですし、不安も大きいと思います。
そのため、最初は恐怖心が強く出るでしょうし、逃げたくもなると思います。

しかし、責任から逃げてもあまり効果はなく、最終的には肩書に応じて責任を取らされることになります。
どうせ逃げられないなら最初から受け止めた方がお得です。
せめて責任を取れる自分であろうと努力することはし続けましょう。

マネジメントの本質は責任を取ることだと言っても過言ではないと思うので踏ん張りどころです。

5.報連相に報酬を与える

マネジメントで大事なことは、タスクに関する報連相(報告・連絡・相談)にインセンティブを与えるという点です。

報連相をする際に、毎回怒られる、注意される、偉そうにマイクロマネジメントされるというケースでは、誰も報連相をしたがらないと思います。
でも、意外とそういうマネジメントスタイルの人は多いものです。
毎週のように定例を開いて、事細かく進捗報告をさせて、どうでもいいことを指摘したり怒ったりする会社は未だに多いです。
部下からするとそんな定例会はただの地獄で、仕事に対するモチベーションを下げる原因だと思います。
私ならそんな定例に出たくないですし、報連相自体を全力で避けます。

一方で優秀なマネージャーは、報連相をしてくれた部下に何らかの報酬を与えます。
ここでいう報酬とはお金ではなく、心からの感謝の言葉などです。

「この時点で報告してくれて助かった!ありがとう!」

「良い感じに進んでいるね!いつもありがとう」

などの言葉を自然と言える人たちです。

私も社会人になって様々な部下を持ってみて改めて思うのですが、適宜適切な報連相をしてくれている時点で凄まじく優秀な部下だと思うのです。
報連相をしてくれようとしただけでも褒め称えたいです。

ベンチャーでは、若い部下を持つことも多いので、報連相という言葉自体を知らない人も多いです。
一つ一つ教えて、報連相ができたら褒めてあげてください。

マネージャーにとっては報連相なんて当たり前過ぎて「出来て当然でしょ」と思う人の方が多いと思いますが、認識を改めて、きちんと褒める習慣を身につけましょう。

おわりに

上記のようなマネジメントスキルは、ベンチャーでマネージャーをしている皆さんならばすでにお待ちだと思いますが、改めて意識することで組織がより良い方向に行くかもしれません。
皆様の組織が健全な成長を遂げることを願っております。

それでは今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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