記事FV
コラム
2024/10/23 更新

【経営学理論】アンゾフの成長マトリクスに付いて解説

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今回は「アンゾフの成長マトリクス」について解説していきます。

1.アンゾフの成長マトリクスとは

アンゾフの成長マトリクスとは、経営戦略の方向性を考える際に活用できる4象限のフレームワークです。

以下の図のように、横軸に「製品」、縦軸に「市場」を置いて、それぞれ「新規」と「既存」で分けて、そのかけ合わせによって戦略の方向性を考えます。

上図のとおり、(1)~(4)まで戦略パターンがありますので、それぞれ解説していきます。

(1)市場浸透戦略(既存市場✕既存製品)

市場浸透戦略とは、既存市場において、既存の製品を販促する戦略のことをいいます。

例えば、既存製品をより多く販売するために、営業部隊を増員して拡販を行う、何らかのキャンペーン施策を実施する、既存製品に対する認知度を上げるためにTVCMを打つなどが該当します。

市場浸透戦略の究極的な目的は、既存の市場でのシェアを高めることにあります。
シェアが高くなればなるほど、製品に対する価格決定力が増していくので、利益を得やすくなっていきます。

また、シェアが拡大していくにしたがって、通常は製品の販売個数が増えますから、規模の経済が働き、コストを削減しやすくもなります。

この戦略は最もオーソドックスな戦略なので、一般的によく採用されている戦略といえます。

(2)新製品開発戦略(既存市場✕新規製品)

新製品開発戦略とは、既存の市場に、新しく開発した製品や商品を販売していく戦略のことをいいます。

代表例としては家電です。
PCやスマホ、電子レンジや洗濯機などは毎年のようにバージョンアップされて、新しい機能がついたり、CPUが高性能になったりします。
そうやって、新規の製品を既存市場に売っていく戦略です。

この戦略で最も重要な点は差別化です。

どのような製品・商品であっても、必ずといっていいほど競合他社が存在します。
特に家電業界などは競合だらけです。
そのような状況下で勝ち上がるためには、他社との差別化が必要不可欠です。

どういう差別化を図れば既存市場のユーザーに受け入れてもらえるのかを考え、具体的な戦略に落とし込んでいかないといけません。

どのようなフレームワークでも同じですが、戦略の方向性は示してくれるものの、具体的な戦略の内容は出してはくれません。
そのため、どのような差別化を図るのかという点については自分で考えるしかありません。

(3)新市場開拓戦略(新規市場✕既存製品)

新市場開拓戦略は、新規市場に対して、既存製品・商品を販売できないかと考える戦略です。

わかりやすい事例は海外進出です。
日本での成功ノウハウを応用しやすい国を見つけ出して、その国で支社を作って販売を開始するような戦略が該当します。

もちろんこの戦略は国内市場においても実行可能です。
今までターゲットにしていなかった顧客層(年齢、性別、居住地域などで細分化した層)にアプローチする戦略も新市場開拓といえます。

考え方次第で新しい市場は見つかるものなので、今までとは違う切り口で市場を細分化してみると、見えていなかっただけの新しい市場が見つかるかも知れません。

(4)多角化(新規市場✕新規製品)

多角化戦略は、新規市場に対して、新規製品又は商品を販売していくという戦略です。

この戦略が最も不確実性が高く、成功難易度も高いハイリスクな戦略です。
ベンチャー企業を一つ立ち上げて、一から始めますというのと同じようなものなので、人材獲得コスト、マーケティングコスト、開発コストなどがすべてかかってくる戦略となります。

一方で、ハイリターンかと言われるとかなり怪しいと思います。
膨大なコストをすべて回収して、リターンを得るまでの利益はなかなか得られないことが多いので、勝てるという確信がない限り、多角化戦略は失敗に終わることが多いです。
したがって、慎重に調査を重ねた上で選択すべき戦略といえます。

ただし、全く成功の見込みがないかといわれるとそうではありません。
この点について、アンゾフ教授がヒントとなる理論を提唱しているので、解説していきたいと思います。

2.多角化戦略の分類

アンゾフ教授は、多角化戦略を以下の4つの類型に分けて考えています。

  1. 水平型
  2. 垂直型
  3. 集中型
  4. 集成型

これらの違いを理解しておくと多角化戦略を成功に導きやすくなると思いますので、一つずつ解説していきます。

(1)水平型

水平型の多角化戦略は、自社にある既存技術を応用して新製品を開発し、自社の顧客によく似た顧客をターゲットにして新規市場を開拓しようとする多角化戦略です。

この戦略は、新製品開発戦略(既存市場✕新規製品)にかなり近い戦略で、しかもローリスクです。
なぜなら、自社の既存技術を活用できるので強みも活かせますし、今までの既存顧客と近い顧客をターゲットにするため、ノウハウの応用も可能になるからです。

この戦略の事例としては、会計SaaSで成功している会社が、労務管理SaaSを開発して売るというケースが考えられます。
会計処理と労務管理は密接に繋がっているので既存の技術とノウハウを応用することができます。
また、顧客層もかなり近く、重なりもあるので、既存顧客へのクロスセルや顧客紹介なども得られやすいです。

(2)垂直型

垂直型の多角化戦略は、自社のサプライチェーンの上流または下流に向かって多角化を進めていく戦略です。

例えば、製造業を営む会社が、自社で使用する部品の製造・販売まで行うケースや消費者向け小売業に参入するケースなどが該当します。

この多角化戦略を継続して、サプライチェーンのほぼすべてを自社だけで完結できるようになれば、仕入れや販売における交渉をしなくてよくなるので、価格決定力が高まり、市場における自由度が上がります。

しかし、サプライチェーンが巨大であればあるほど、多角化に際して巨額の投資が必要になります。
そういう意味では何らかの事業で大成功を収めた企業の方が採用しやすい戦略かもしれません。

(3)集中型

集中型の多角化戦略は、自社の中核となる技術や製品と関連する新製品を開発し、それを新規の市場に販売する多角化戦略です。

例えば、自社が有する特許や秘匿技術を応用して、全く別の用途で使用する新製品を開発するようなケースです。

この戦略も比較的成功事例が多いため、多角化戦略においては検討すべき類型だと思います。
代表的な実例でいうと、写真用フィルムで培ったコラーゲンに関する特許やノウハウを応用して、コラーゲン系の化粧品を作った富士フィルムの事例が挙げられます。

(4)集成型

集成型の多角化戦略は、今までの技術やノウハウとは全然関係がない新製品を開発し、新規の市場で販売する多角化戦略です。
別名「コングロマリット型多角化戦略」と呼ばれています。

この戦略は、最も成功難易度が高い戦略だと思いますので、確実に勝てるという見込みがない限りは控えた方が良い戦略です。

過去の成功事例もそこまで多くはありませんが、一社挙げるとすれば、セブン銀行の事例だと思います。
スーパーやコンビニなどで成功したセブン&アイグループが、セブンイレブンやイトーヨーカドーの中に設置するATM専門の銀行を立ち上げて成功した事例です。
セブン銀行は預金サービスを提供せず、ATMに特化している点が他の銀行との差別化になっており、手数料だけで莫大な利益を上げています。
小売業者が銀行業という全く関係のない分野で成功しているので、集成型といって良いと思います。

おわりに

ということで今回はアンゾフの成長マトリクスを解説させていただきました。
皆様の参考になれば幸いです。

【お問い合わせ】

WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。

内容に応じて担当者がお返事させていただきます。

転職相談はこちら

コラムの関連記事

プラットフォーム型ビジネスモデルとは

エージェンシー問題とは

効率的市場仮説とは

経営戦略理論・RBVとは

三新活動とは

ビジネスモデルとは

集団浅慮とリスキー・シフトとは

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは

プロダクトライフサイクルの意味

ステークホルダーの意味や種類

沈黙の螺旋とは

PEST分析について

株式の制度やメリット

完全競争と不完全競争

M&Aの基礎知識

サーバントリーダーシップ理論とは

モラルハザードとは

経済学理論「逆選択」とは

情報の非対称性とは

組織心理学「PM理論」とは

パスゴール理論とは

心理学理論に基づくマネジメント

経営学の全体像

経営戦略の4つのレベル

経営戦略の4段階

高い業績を出す組織を作る方法

変革型リーダーシップ理論

カリスマ的リーダーの特徴

意思決定モデル4類型

組織内の「いじめ」対処法

科学的管理法と人間関係論

組織を崩壊させる「ゆでガエル理論」とは

ゲシュタルト心理学分野とは

権力の腐敗とは

組織内で起こる「同調現象」とは

マネジメントにおける「観客効果」とは

「自己検閲」と「マインドガード」

「集団極性化」とは

「傍観者効果」の危険性

「組織コミットメント」とは

モチベーションに影響を与える「心理的契約」

早期離職の心理学

早期離職を防ぐ可能性のあるRJP理論

サボる人間の心理学

職務特性理論とは

心理学に基づくストレス対処法

人事評価で気をつけたい認知バイアス

マネジメント理論「XY理論」とは

人材採用で気をつけたい「ハロー効果」

組織開発でも使える単純接触効果

ビジネスでも重要な恋愛心理学

ビジネスでも使える認知的不協和理論

ダニングクルーガー効果とは

極限の集中状態に入る条件

内発的動機づけの意味

「マジカルナンバー」とは

人事や採用担当が学ぶべき心理学

ベンチャー監査役の業務内容

ベンチャー内部監査で活かせる資格

ベンチャー総務の業務内容

ベンチャー人事の業務内容

ベンチャー労務に活かせる資格

ベンチャー法務に求められる能力

ベンチャーPR/IRの業務内容

ベンチャーの経営企画で活かせる資格

ベンチャー財務部の業務内容

ベンチャー経理経験の価値が高い理由

経営管理部門の採用の難しさ

応募が集まる求人票とは

職務経歴書の書き方とは

人材紹介という仕事に対する向き合い方

情シスのリモートについて

情シスで求められる志向性

年収から見た情シス市場の変化

ベンチャーにおけるCxOの役割

ベンチャー企業の基本類型

求人数から見た情シス市場の変化

M&A全体の流れ

5F分析とは

スタンドアローン問題

サンクコスト効果(コンコルドの誤謬)

SWOT分析とは

M&A契約の重要条項(前編)

M&A契約の重要条項(後編)

3C分析とは

ストックオプションとは

クラウンジュエル・ホワイトナイトとは

MBOとは

著者画像

株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

満足度98%のキャリアコンサル

無料カウンセリングはこちら