本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は「アンゾフの成長マトリクス」について解説していきます。
アンゾフの成長マトリクスとは、経営戦略の方向性を考える際に活用できる4象限のフレームワークです。
以下の図のように、横軸に「製品」、縦軸に「市場」を置いて、それぞれ「新規」と「既存」で分けて、そのかけ合わせによって戦略の方向性を考えます。
上図のとおり、(1)~(4)まで戦略パターンがありますので、それぞれ解説していきます。
市場浸透戦略とは、既存市場において、既存の製品を販促する戦略のことをいいます。
例えば、既存製品をより多く販売するために、営業部隊を増員して拡販を行う、何らかのキャンペーン施策を実施する、既存製品に対する認知度を上げるためにTVCMを打つなどが該当します。
市場浸透戦略の究極的な目的は、既存の市場でのシェアを高めることにあります。
シェアが高くなればなるほど、製品に対する価格決定力が増していくので、利益を得やすくなっていきます。
また、シェアが拡大していくにしたがって、通常は製品の販売個数が増えますから、規模の経済が働き、コストを削減しやすくもなります。
この戦略は最もオーソドックスな戦略なので、一般的によく採用されている戦略といえます。
新製品開発戦略とは、既存の市場に、新しく開発した製品や商品を販売していく戦略のことをいいます。
代表例としては家電です。
PCやスマホ、電子レンジや洗濯機などは毎年のようにバージョンアップされて、新しい機能がついたり、CPUが高性能になったりします。
そうやって、新規の製品を既存市場に売っていく戦略です。
この戦略で最も重要な点は差別化です。
どのような製品・商品であっても、必ずといっていいほど競合他社が存在します。
特に家電業界などは競合だらけです。
そのような状況下で勝ち上がるためには、他社との差別化が必要不可欠です。
どういう差別化を図れば既存市場のユーザーに受け入れてもらえるのかを考え、具体的な戦略に落とし込んでいかないといけません。
どのようなフレームワークでも同じですが、戦略の方向性は示してくれるものの、具体的な戦略の内容は出してはくれません。
そのため、どのような差別化を図るのかという点については自分で考えるしかありません。
新市場開拓戦略は、新規市場に対して、既存製品・商品を販売できないかと考える戦略です。
わかりやすい事例は海外進出です。
日本での成功ノウハウを応用しやすい国を見つけ出して、その国で支社を作って販売を開始するような戦略が該当します。
もちろんこの戦略は国内市場においても実行可能です。
今までターゲットにしていなかった顧客層(年齢、性別、居住地域などで細分化した層)にアプローチする戦略も新市場開拓といえます。
考え方次第で新しい市場は見つかるものなので、今までとは違う切り口で市場を細分化してみると、見えていなかっただけの新しい市場が見つかるかも知れません。
多角化戦略は、新規市場に対して、新規製品又は商品を販売していくという戦略です。
この戦略が最も不確実性が高く、成功難易度も高いハイリスクな戦略です。
ベンチャー企業を一つ立ち上げて、一から始めますというのと同じようなものなので、人材獲得コスト、マーケティングコスト、開発コストなどがすべてかかってくる戦略となります。
一方で、ハイリターンかと言われるとかなり怪しいと思います。
膨大なコストをすべて回収して、リターンを得るまでの利益はなかなか得られないことが多いので、勝てるという確信がない限り、多角化戦略は失敗に終わることが多いです。
したがって、慎重に調査を重ねた上で選択すべき戦略といえます。
ただし、全く成功の見込みがないかといわれるとそうではありません。
この点について、アンゾフ教授がヒントとなる理論を提唱しているので、解説していきたいと思います。
アンゾフ教授は、多角化戦略を以下の4つの類型に分けて考えています。
これらの違いを理解しておくと多角化戦略を成功に導きやすくなると思いますので、一つずつ解説していきます。
水平型の多角化戦略は、自社にある既存技術を応用して新製品を開発し、自社の顧客によく似た顧客をターゲットにして新規市場を開拓しようとする多角化戦略です。
この戦略は、新製品開発戦略(既存市場✕新規製品)にかなり近い戦略で、しかもローリスクです。
なぜなら、自社の既存技術を活用できるので強みも活かせますし、今までの既存顧客と近い顧客をターゲットにするため、ノウハウの応用も可能になるからです。
この戦略の事例としては、会計SaaSで成功している会社が、労務管理SaaSを開発して売るというケースが考えられます。
会計処理と労務管理は密接に繋がっているので既存の技術とノウハウを応用することができます。
また、顧客層もかなり近く、重なりもあるので、既存顧客へのクロスセルや顧客紹介なども得られやすいです。
垂直型の多角化戦略は、自社のサプライチェーンの上流または下流に向かって多角化を進めていく戦略です。
例えば、製造業を営む会社が、自社で使用する部品の製造・販売まで行うケースや消費者向け小売業に参入するケースなどが該当します。
この多角化戦略を継続して、サプライチェーンのほぼすべてを自社だけで完結できるようになれば、仕入れや販売における交渉をしなくてよくなるので、価格決定力が高まり、市場における自由度が上がります。
しかし、サプライチェーンが巨大であればあるほど、多角化に際して巨額の投資が必要になります。
そういう意味では何らかの事業で大成功を収めた企業の方が採用しやすい戦略かもしれません。
集中型の多角化戦略は、自社の中核となる技術や製品と関連する新製品を開発し、それを新規の市場に販売する多角化戦略です。
例えば、自社が有する特許や秘匿技術を応用して、全く別の用途で使用する新製品を開発するようなケースです。
この戦略も比較的成功事例が多いため、多角化戦略においては検討すべき類型だと思います。
代表的な実例でいうと、写真用フィルムで培ったコラーゲンに関する特許やノウハウを応用して、コラーゲン系の化粧品を作った富士フィルムの事例が挙げられます。
集成型の多角化戦略は、今までの技術やノウハウとは全然関係がない新製品を開発し、新規の市場で販売する多角化戦略です。
別名「コングロマリット型多角化戦略」と呼ばれています。
この戦略は、最も成功難易度が高い戦略だと思いますので、確実に勝てるという見込みがない限りは控えた方が良い戦略です。
過去の成功事例もそこまで多くはありませんが、一社挙げるとすれば、セブン銀行の事例だと思います。
スーパーやコンビニなどで成功したセブン&アイグループが、セブンイレブンやイトーヨーカドーの中に設置するATM専門の銀行を立ち上げて成功した事例です。
セブン銀行は預金サービスを提供せず、ATMに特化している点が他の銀行との差別化になっており、手数料だけで莫大な利益を上げています。
小売業者が銀行業という全く関係のない分野で成功しているので、集成型といって良いと思います。
ということで今回はアンゾフの成長マトリクスを解説させていただきました。
皆様の参考になれば幸いです。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。