社会人になると、上司などから「会計を学べ!」「財務諸表を読めるようになれ!」「決算書読めないなんてビジネスマンとして通用しないぞ!」なんてよく言われます。
少なくとも私は若い頃にそう言われて育ちました。
そもそもビジネスマンがビジネスを語るときに、客観的な数字に基づいて語る必要がありますが、この数字とは、原則として会計情報に基づく数字です。
そのため、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)などの決算書が読めないとなかなか説得力のある論述はできません。
その結果「ビジネスマンとして決算書読めないと話にならないよね」という流れが生まれたのだと推測しています。
とはいうものの、日頃会計に触れない職種の場合、わざわざ自分のプライベートの時間を犠牲にしてまで会計を学ぶメリットが無いように思えます。
それに、会計は計算問題ばかりで、文系には全く面白くない科目に見えます。
そのような理由から、私自身も若い頃は会計から逃げておりました。
それでも会計を仕事で使う機会自体がほとんどなかったので不都合もありませんでした。
しかし、自分がマネジメントを行う側になって見ると、状況が一変しました。
マネージャーにとっての会計知識は、必要とか必要じゃないとかの次元ではなく「知っていて当たり前」というレベルの知識でした。
会議では当たり前のように会計用語が飛び交うので、知らないと会議の内容を理解することすらできないのです。
そこから必死に勉強して、何とか最低限の知識を身につけたと思いますが、今を生きる若いビジネスマンの皆様には、私のような失敗をしてほしくありません。
そこで今回は、会計とは縁遠い人生を歩んできた文系純血種の私が、なぜ会計リテラシーが重要なのか、会計リテラシーがあるメリットとはどういうものか、という点について話していきたいと思います。
大学院時代に教授から何度も「定義から始めろ」と言われたので、言葉の定義から明確にしていきたいと思います。
この記事で使用する言葉の定義は以下のとおりとします。
ビジネスマンにとって、なぜ会計リテラシーが重要だと言われ始めたのでしょうか。
この点について少し考察していきたいと思います。
私が小学生くらいの頃(1990年代)は、まだインターネットが十分に普及しておりませんでした。
少なくとも私の同級生で「家にパソコンあるで」と言っていた子は超少数派で、日常会話の中に「インターネット」という単語はほとんど出てきませんでした。
その時代に最も活躍していたのは「営業職」の皆様でした。
私の親世代がちょうど働き盛りだった頃です。
頭の良さより社交性や粘り強さといった、数字で表すことが難しい人間力のようなものが評価されていた時代です。
当時、私の親世代の人たちを見ていた限りでは「決算書」なんていう言葉は一度も出てきませんでしたし、読めるような賢そうな人も私の周りには一人もいませんでした。
それでも多くの営業マンがそこそこ稼いでいて、営業職のおじさんたちの羽振りはかなり良かったです(無理をして奢ってくれていたのかもしれない)。
しかし、私が中学校を卒業する頃(2000年代)には、状況は一変していたと記憶しています。
2000年以降の10年くらいの間にインターネットが爆発的に普及し、一家に一台PCがあることが当たり前になり、学校の教科書にも「情報社会」「情報化社会」という単語がよく出てくるようになりました。
私が社会人になる頃(2000年代終盤)には、インターネットの普及率が75%を超えていました。
ご老人を除いて、若い世代のほとんどがインターネット利用経験者になった時代です。
そして、インターネットの普及に伴って、WEBマーケティングという新しいジャンルの言葉が普及し始めました。
インターネット上の広告という概念が出てきたのです。
今の人たちが知っているかわかりませんが、一昔前に主流だった「バナー広告」等のことです。
その結果、営業の形が大きく変わっていきました。
これまでは、取引関係のない会社や個人に対して鬼のように電話してアポを取って、足繁く通って契約を獲得してくるという泥臭い営業手法が主流だったのですが、ネット広告が普及してからは、魅力的なプロダクトをWEB広告として配信し、リード(見込み客)を獲得するという方法に変わってきたのです。
これにより、広告効果や費用対効果という概念が一気に浸透していったような気がします。
ここはもう会計の世界です。
少なくともIT業界では、そういうことが当たり前のようにわかる人材が評価されるようになりました。
ITや会計分野の知識がある人間が経営の重要ポジションに就き始めたのもここ十数年くらいです。
更に時代は進んで、今では一人一台以上のスマホを持ち、ほぼ全員が当たり前のようにインターネットを使いこなしている時代です。
泥臭い営業も一部ではまだ残っていますが、徐々に少なくなっていて、よりスマートにより効率的に売上を作る技術(ノウハウ)が普及しています。
コロナが流行り始めて(2020年代)からはその傾向が一気に加速しました。
営業先への訪問自体が難しい時代に入ったので、売上を立てるためにWEBマーケティングを活用せざるを得ない状況に陥ったのです。
そのため現在では、会計がわかる、ITがわかる、消費者動向がわかるプロマーケターが花形職種です。
そして、マーケターにとって、PLを見る能力なんていうのは基礎中の基礎で、全員が当然に読めるはずのものです。
少なくとも私の知る限りのプロマーケターで「PLが読めません」という人はいません。
皆さん自分のプロジェクトの簡易PLを作っていて、どれほどの広告費用でどれだけの効果(売上増)があったのかを日々チェックしています。
中には高度な統計分析も行える方もいらっしゃるので、会計の知識を超えた数学力を高いレベルで持っていらっしゃいます。
2020年代というのは、そういう人たちが評価される時代なのだと思います。
マネージャーの役割にも変化が起こっています。
私がまだピチピチの若手ビジネスマンだった頃(2010年前後)は、営業職のマネージャーの多くは財務諸表なんて全然わかっていませんでした。
誰もが知っている東証一部上場企業のマネージャーたちですら8割くらいの人が会計を理解していない状態でした。
私は若い頃に、少なく見積もっても数百人以上の営業系のマネジメント層に会い、彼らと色んなお話をしましたが、彼らからBSやPLの話が出たことは殆ど無いですし、そもそも数学大嫌い族が多かったです。
四則演算すらまともにできないという人もちらほらいましたが、それでも十分な活躍をしている人達でした。
今改めて考えてみると、当時の営業系のマネジメント層に求められていたのは、会計力より統率力だったのだろうと思います。
理論より根性が大事で、売上は根性で作るものであって、戦略なんてものはほとんど必要とされていなかったという実感があります。
マネージャーの役割は、主に部下を叱咤激励又は強迫し、徹底的に追い詰めて売上を作らせることでした。
当時は今みたいに労働環境を良くしようとか、ブラック企業・ホワイト企業などという概念も普及していなかったので、軍隊のような部署を持っている会社が多数派でした。
しかし、時代は流れ、今はそういう軍隊型根性論組織では人が集まらなくなっています。
何の戦略もなく、行って来い!売ってこい!は通用しない時代の始まりです。
その結果、経営戦略・競争戦略・営業戦略・組織戦略などの概念が普及していきます。
経営戦略系の書籍がよく出版され始めたのもこの頃だったと記憶しています。
2010年代以降から徐々に営業系のマネージャーにも高い知性と戦略性が求められるようになって行き、今では会計リテラシーがあることは当たり前の前提となっています。
そのため、自組織のPLすら見れないマネージャーは、どんどん立場が弱くなっていて、自分の居場所を失っていきます。
上記のような時代の流れから、会計リテラシーの重要度が数段階上がったのかなと考えています。
というより、やっと会計リテラシーがある人を評価する土壌が出来上がってきたと言っても良いかも知れません。
レベルの高い企業では、営業系職種といえども、昔から会計知識は必須と言われていたので、やっと一般的な企業にまで会計の重要性や適切な評価基準が普及して行ったのだろうと思います。
2018年になると「ファイナンス思考」という書籍が発売され、ビジネスマンに多く読まれることになりました。
この書籍は、元mixi社のCEOで、今はシニフィアン株式会社の共同代表を務めていらっしゃる朝倉祐介さんが執筆した書籍ですが、ベンチャー界隈では今でも広く読まれ続けている名著です。
この書籍が出版される少し前の2016年頃から「財務(ファイナンス)知識って大事だよね」という話がチラホラと実務界でも言われ始め、2018年のこの書籍で一気にその考え方が広がり、2024年現在では経営者の多くがファイナンスの知識を詰め込む努力をしています。
おそらくある程度名のあるスタートアップの経営者なら、ファイナンスに関する知識はかなり詰め込んでいるはずです。
そして、我々法務業界にもその風潮は突風のように流れ込んできていて、私自身も日々ファイナンスの勉強に追われています。
政府がM&Aを促進する政策を行うという流れもあって、ファイナンス系の知識の必要性は更に加速度的に広がっていっています。
この流れは経営陣→経営幹部→経営管理部門の専門職→営業・事業部長クラス→一般社員へと伝播していくので、若手の皆さんは今のうちからファイナンスを学んでおくことを強くオススメいたします。
皆さんが部長クラスになる頃には「ファイナンス知識なんて当然の前提」と言われるようになっているはずなので、時間があるなら今のうちに学んでおきましょう。
時代の流れと共に、会計や財務のリテラシーが必要になってきているのは何となくわかりましたが、実際に勉強をするためにはメリットがほしいですよね。
ご褒美もなく走り続けるのは辛いです。
そもそも文系の9割は数学が嫌いだから文系に行ってるようなものですし、わざわざ嫌いな数字関係のお勉強をしたいなんて思いません。
そんな文系の皆様のために、会計リテラシーを身につけるメリットを挙げていきたいと思います。
ここに書かれている8つのメリットのいずれも刺さらない場合は、会計なんてやらなくていいかもしれません。
一方で、複数刺さる人は、今すぐ簿記を学び始めましょう。
私がまだ若い頃、上司の付き人として経営会議に出席したことがありました。
せっかくの機会ですから、ついでにその資料の内容を見て、会議も聞いて、勉強してやろうと思ったのですが、資料にはたくさん数字が羅列してあって、聞いたこともない言葉やアルファベットの略称等が載っています。
円グラフや棒グラフも何種類も掲載されていて、もう・・・無理でした。
資料の各所に出てくる「YoY」という記号が、どう見ても泣いている顔文字(YoY)にしか見えないのです。
※YoYとは、Year on Yearで前年比という意味
その後、役員陣が何やら呪文のようなものを詠唱しながら話し合っていましたが、全く理解できませんでした。
かろうじて理解できたのは、その会議が今期の業績に関する報告であるということだけです。
当時、決算書の「け」の字もわからなかったので、その資料が各事業部の会計資料で、売上・営利のグラフだということすらわかりませんでした。
しかし、会計の基礎を学び終わった今なら、ほとんどすべての呪文の意味を理解できます。
何ならあの呪文の詠唱を私自身が行うことも可能ですし、資料も読み解くことができます。
このように、会計を学ぶことで経営会議に出ても困らない程度の知識が身につくという点は、社会人としてとても大きなメリットだと感じています。
会計を学んでPLを分析できるようになると、事業の問題点が比較的すぐにわかるようになります。
例えば以下に挙げるようなことが疑問として湧いてきます。
これらの疑問を深堀りしていくと、大体その事業の問題点が見つかります。
ときには不正行為を見つけることもあります。
そして問題点さえ見つかれば、改善策も見つけられることが多いので、マネジメント層にとっては必須の能力といえますし、会計がわかる大きなメリットの一つです。
一方で会計がよく解っていないマネージャー(例えば売上しか見ていない人)の場合、事業のどこに問題があるのかが解っていないので、頓珍漢な施策を打ったり、売上ばかりを追いかけて無駄に営業マンを増やしたりします。
その結果、さらにコスト高になって利益が出なくなっていきます。
最終的には事業失敗の責任を取らされて降格又は退職することになります。
自分自身がそういうマネージャーにならなくて済むようにするためにも、会計を学んでおくべきです。
経営者という人たちは、一般的には会計リテラシーが高い人たちです。
中規模以上の経営者であれば、相当高い会計リテラシーを持った人たちと言ってよいでしょう。
彼らと対話していると、会計やファイナンスに関する話が多く出てきます。
そのため、経営者の言葉を正確に理解するためには、会計の基礎的なリテラシーが必須なのです。
そして会計リテラシーがあれば、経営者が言っていることがただの夢物語なのか、それとも会計的に見て根拠がある話なのかをよく分析できるようになります。
もっといえば、会計リテラシーを持って経営者の言葉を理解できるようになると、ついていくべき人を間違わずに済みます。
これは人生においてとても重要なメリットだと思います。
ついていく人を間違うと、キャリアそのものが終わってしまうこともあるので、慎重に見極めたいものです。
年齢を重ねていくと、通常は役職がつきます。
部下を持つようになっていきますし、統括する組織も大きくなっていきます。
このとき、会計が解っていないマネージャーは、まともな組織戦略を練ることができず、目の前の売上だけにこだわって無駄に組織を大きくしすぎる傾向があります。
その結果、経費過多で利益が出づらい組織が出来上がります。
一方で会計リテラシーが高い優秀なマネージャーは、自分が行っている事業の市場規模をある程度把握し、いつまでにどの程度の売上が見込めて、その売上に対する人件費割合の適正値がいくらで、それに基づく人員数や人件費配分などをしっかり考えて、組織戦略を練っていくことができるため、無謀な拡大を目指しません。
今の時点で採用すべき人員数を的確に把握した上で、採用戦略を練ることができます。
このような能力を身につけることができる点も、会計を学ぶ大きなメリットだと思います。
会計を学んでいくと、資源の有限性を思い知ります。
売上は無限に生み出されるものではありまませんし、利益は勝手には出てきません。
その概念をしっかりと理解した上で、マネージャーは売上を上げることとコストを削減することを同時に行わないといけません。
そのような意識が根付いていくと、費用対効果に対する執着が生まれます。
などの思考が脳内に定着して、いろいろな「無駄」がちゃんと目につくようになり、業務効率や費用対効果を意識できるようになります。
マネージャーにとって、このような意識を持っていることは極めて重要な資質です。
限られた資源をどこに分配するのかという視点はファイナンス思考にも通じますので、できる限り早く会計を学んで身につけておくべきです。
会計リテラシーが高くなると、人件費に対するシビアな判断ができるようになります。
自社に必要な人材レイヤー(階層)はどのレイヤーで、そのレイヤーの年収相場はどの程度なのかを意識的に調べるようになるでしょう。
その結果、採用の目利き力も向上します。
また、自身の会計リテラシーが上がってくると、他者の会計リテラシーの程度にも敏感になります。
そして、優秀な経営メンバーのほとんどが会計リテラシーを高い次元で身につけていることに気づくはずです。
そうなると、採用時にも会計リテラシーがあるかどうかが基準の一つになってきますので、採用精度が間違いなく向上します。
さらに、会計がわかると採用コストについても気にするようになります。
本当にその人材紹介業者に35%の手数料を支払うのが正しいのかというシビアな判断ができるようになってきます。
良いエージェントとはどのようなエージェントなのかという定義づけもできるようになるでしょう。
このように、会計を学ぶと、いろいろな派生的メリットがあります。
会計・財務を学ぶと、ベンチャーにとって資金調達がどれほど重要なことで、どれほど難易度が高いことなのかを思い知ることができます。
私自身も会計を学んだことでCFOという職種の重要性と大変さを理解できたような気がしています。
スタートアップの成長はCFOの質で決まると言っても過言ではないかもしれません。
それほど重要なポジションです。
これがわかっているかいないかで、日々の業務の精度が変わってきます。
CEOやCFOから依頼される様々な業務が、将来の資金調達及びIPOに繋がっているのです。
数年先の計画を実行するために今の業務があるので、俯瞰的な視点で事業やタスクを観察することができるようになります。
その視点は経営視点とも符合するものなので、ビジネスマンとして一段階上のレベルに上がることができます。
これも会計を学ぶ大きなメリットの一つです。
会計や財務を理解している人は、経営層と近い目線で対話することができるようになります。
会計や財務を学んでおけば、経営者たちが会話の中に散りばめてくる会計用語、ファイナンス用語、経営戦略用語がある程度はわかるようになるので、彼らが何を言っているのかを正確に理解することができるようになります。
そして、経営者たちの話は新しい学びの宝庫なので、常に新しい発見があります。
若いビジネスマンにとって、経営者と話すという機会は極めて貴重な体験です。
彼らとの会話の中にたくさんのヒントが隠れているので、それらを漏らすことなく拾い集めてキャリアに活かしましょう。
それができるようになるためにも、会計リテラシーは必須です。
長くなりましたが、会計リテラシーを手にするメリットについて書かせていただきました。
この記事をキッカケにして若手ビジネスマンの皆様が会計を学ぼうと思ってくれたら嬉しいです。
それでは、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。