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コラム
2024/09/25 更新

ビジネス書より論文を読みましょう(論文検索サイトもご紹介)

はじめに

法務という職業柄、論文や判例評釈を読む機会が多く、読むこと自体が仕事の一部であり生活の一部にもなっています。
昔はビジネス書も読んでいたのですが、今は7~8割が論文(専門書等を含む。以下同様)です。
社会人になって10年以上が経ちますが、読み終わった文献数は2000以上には達していると思います。
それを踏まえた上で、勉強になった度合いでいえば論文が圧勝です。
各大学又は大学院で現在もご活躍なさっている教授の皆さんが書かれた論文は、実務家である私が読んでも十分に価値がある内容ばかりで非常に有益でした。

そこで今回は、ビジネスマンでも論文を読むべきだという、論文を読むことを推奨する記事を書きたいと思います。

1.ビジネス書と論文の違い

私は、20代前半の頃はビジネス書を中心に読み漁っておりました。
それくらいしか学ぶ方法を知らなかったからです。

そして、大量のビジネス書を読んで思ったことは『あまり勉強にならない』ということでした。
100冊読んで1冊素晴らしい書籍があるかないかくらいの確率で、しかもその1冊も実際に使えそうな箇所は1~2ページ程度という内容の薄いものばかりです。
誤解を恐れずにいうと、ビジネス書の多くは1~2ページで書ける内容を精一杯引き伸ばして、余白をたくさん作ってやっとこさ200ページ以上にして仕上げている本という印象です。
海外のビジネス書を翻訳したものに関しては、元々の英語がおかしいのか翻訳がおかしいのかわかりませんが、非常に読みづらいものが多く、(無駄に長い割には)得るものは更に少なく感じました。
そういった数多の読書の失敗を乗り越えて、20代の後半くらいからは専門書を読み始めました。

ビジネス書の多くは1,000~2,000円程度ですが、専門書については一冊3000~10,000円ほどします。
若手ビジネスマンにとっては非常に勇気のいる値段設定です。
でも、専門書は感動するほど素晴らしい知の宝庫でした。
もちろんすべてが素晴らしかったかというと違いますが、ビジネス書の10倍くらいの確率(約1割)で良い書籍に出会うことができました。

あまり勉強にならなかった残りの9割の書籍たちについても、その中の5~8冊くらいは単に私の脳みそが足りないだけで、内容自体は素晴らしいものばかりです。
読むタイミングと目的さえ間違わなければ、8~9割の書籍が有益です。
それが専門書の素晴らしさだと思っています。

専門書の多くは、元々博士論文等だったものを出版向けに書き換えたもの又は論文の重要箇所を集めたものなので、長期に渡る研究に裏打ちされた知識が凝縮されていて、一つ一つの文章に重みがあります。

そして、重要な箇所については参考文献がしっかりと載っていて、芋づる式に他の専門書・論文を読むことができます。
参考文献は、広大な学問という世界を旅するための道標のようなものです。

ビジネスマン及び専門職が、本当の意味で質の高いインプットをするのであれば、やはり論文を中心とした専門的な文献を読む方が良いと思います。

2.論文の弱点

上述のとおり、論文や専門書は極めて素晴らしい文献で、ビジネスマンにとってより多くの学びを得るための良きツールだと思います。

しかし、論文や専門書には、いくつかの大きな弱点があります。

それについて以下一つずつ解説していきます。

(1)専門書は高いし分厚い

専門書の最大の弱点はその値段です。

ビジネス書の2倍から数倍の値段設定で販売されています。
高度な専門書になればなるほど、値段は高くなっていくのですが、それはそのレベルの専門書を読み解ける人の数が圧倒的に少ないことに起因しています。
専門性の高い書籍であればあるほど、読者数が少なく、市場が小さいので、価格設定を上げないと経費を賄えないのです。

そして、分厚さも問題です。

私の家にある専門書のいくつかを見てみたのですが、平均で700ページくらいあります。
中には1,200ページ超えているものもあるので、ここまでくるともうただの鈍器です。

これだけのボリュームがあると、一周読むだけで1~2ヶ月かかります。
頭に完全に入れようと思ったら3周は読まないといけないので、1冊を読み下すだけで半年以上かかりそうです。
重要なところを抜き出す作業だけでも3ヶ月くらいかかると思います。

このように、専門書は財布にも時間にも優しくないんですよね。

(2)専門書を読むのは手間がかかる

ビジネス書は、1~2ページで要約できるような薄い内容を200ページかけて書いているので、読み下すのはとても簡単です。
1日1冊くらいのペースで読むことも十分に可能です。

しかし、専門書はそうはいきません。

専門書を読もうと思ったら、前提となる基礎知識が必要となります。
基礎知識とは、その分野の専門用語の理解や基礎的な理論の理解です。
これがないとほぼ読めません。

ということは、専門書を読み進める前にその分野の基礎的な知識を習得するために入門書等を読むことになります。
これがかなり手間です。

専門書の中には、最初の数章を基礎知識編に充ててくれているものもありますが、教授が書く「基礎知識」なので、一般の人にとっては全然基礎ではありません。
その分野の第一人者が考える「基礎」と我々が思う「基礎」には大きな隔たりがあるので、大抵の場合は入門書を別途買って読まないと理解できません。

この手間をかけてまで読んでくれる読者はほとんどいないでしょう。

(3)レビューが少ない

ビジネス書の場合、売れている書籍には大量のレビュー(サクラ含む)があります。
そのため、買う前にある程度内容や質を予測することができます。
大抵は買う必要性はないと思うので、図書館又はブックオフで十分です。

一方で、専門書については、その内容の素晴らしさに関係なく、全くレビューが無いことがあります

むしろ、ビジネス書に近いような内容の薄いものほどよく読まれるので、大した内容ではないものの方が多くのレビューを獲得している傾向があります。
そのような状況下では、誰も読む価値がないと思っている専門書なのか、内容は素晴らしいけどレビュアーがいないだけなのかを判別することが難しいです。

また、少数の高評価レビューがあったとしても、そのレビュアーの知識レベルが高過ぎることが多くあって、実際に読んでみると自分のレベルに全然合っていない専門書を買ってしまうということもよく起こります。
専門性の高い書籍をしっかり読了して、まともなレビューを書けている時点で相手はプロです。
プロの言う「良い本」がアマチュア又は実務家にとって「良い本」であるかどうかは怪しいです。
その結果、買ってから「意味がわからなかった」となることが増えます。

長く保有しておけば、数年後の成長した自分が読みこなしてくれることもありますので、無駄にはなりませんが、一時的には若干深手を負います。

これらのリスクを回避するためには、一度中身を見るのが一番です。
しかし、専門書だと図書館にも置いていない、ブックオフにもないということが往々にしてよくあるので、もし中身を確認したいなら大型書店に行くしかありません。
したがって、東京都内や大型地方都市に住んでいる人以外は、本屋にも在庫がないことがほとんどなので、一か八かのギャンブル性の高い買い物をしないといけなくなります。

ちなみに、東京なら丸善丸の内本店とジュンク堂書店池袋本店が最強です。
大抵の本は在庫があるので、中を見ることができます。
この2店舗に置いてない書籍は買うのをちょっと先伸ばした方が良いです。
専門書の中にも人気・不人気があって、人気の書籍であればほぼ間違いなくこの2店舗に在庫がありますので、この2店舗に無いということは、不人気又は改定前の書籍ということだと思います。

3.論文・専門書の探し方

ビジネス書より論文(専門書含む)を読んだ方が間違いなく学びになるのですが、前述のとおり問題もいくつかあります。

そのため、どのようにして探せばいいのかという点についてお話したいと思います。

(1)無料で論文を読む方法その1

まずは無料で論文を読む方法をご紹介します。

【J-STAGE:公開論文のプラットフォーム】

J-STAGEは、日本の学術ジャーナルを発信するオンラインプラットフォームです。
私はこのサイトを「神サイト」と呼んでいます。
叡智の結晶プラットフォームです。

自分の気になる論点、キーワードを検索してみてください。
一般公開されている論文ならば読み放題です。

J-STAGEは、正式には、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。
専門職の皆さんは活用できた方が良いと思うので、ブックマークしておきましょう。

大学及び大学院で学ぶ範囲の学術的論点の多くはここで検索して論文を読み漁れば片付きます。
修士論文程度ならJ-STAGEだけで十分過ぎるものが書けてしまいます。
博士論文まで行くと海外の論文を大量に検索しないといけないので海外版の論文検索サービスを使うことになりますが、日本の論文ならJ-STAGEで十分です。

【Google ScoLar】

https://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja

続いては、Google先生が無料で提供してくれている論文の検索プラットフォームGoogle ScoLarです。
こちらも最高に良いサービスで、海外の論文も含めて検索できてしまいます。
英語力が高い人はGoogle ScoLarの方が大量の論文を見つけ出せるはずです。

正確性や品質に大きめの疑問があるビジネス書なんて買わなくても、著名な大学で活躍している研究者のしっかりとした論文をタダで読める時代です。
最近紙の本が売れなくなっているらしいですが、それはきっと買わなくても良いからというのもあると思います。

ビジネス書を買わなくても、質の高い専門知識をネットで得られる時代になったのです。

(2)無料で論文を読む方法その2

上記の検索プラットフォームを使えば、ほとんどの論点について学習できます。

一方で、もっと深く学びたいとか、もっと同世代の人たちの研究成果が見てみたいというアグレッシブな方もいらっしゃるかもしれません。
そんな勉強熱心な皆様は、学びたい分野の研究を行っている大学院のホームページを訪れてみてください。

有名大学院であれば、博士論文を公開してくれているはずです。

例えば、一橋大学大学院は、博士論文を以下のように公開しています。

【一橋大学大学院経営管理研究科ホームページ】

上記は一橋大学大学院経営管理研究科の博士論文ですが、各研究科のホームページに潜っていくと、多くの大学院が博士論文を公開してくれています。
博士論文は、著者の氏名が公開され、かつ、その論文を審査した教授の名前も公開されてしまうものなので、かなり厳格な審査を経てネットに掲載されます。
そのため、ある程度正確性が担保され、かつ、信頼できる情報が使われていると思って良いです。

一橋大学の他の研究科及びその他の有名大学院も以下にいくつか挙げておきます。


【一橋大学機関リポジトリ】

https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/


【京都大学学術情報リポジトリ】

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/


【東京大学学術機関リポジトリ】


【神戸大学学術成果リポジトリ】

https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/


(3)話題の書籍は避ける

最後に、探し方というより無駄なお金を使わないようにという意味で、話題の書籍を避けた方が良いかなと思います。

話題の書籍には大きく分けると2種類あります。

一つが創られた話題の書籍で、もう一つが本当に価値のある書籍です。

出版業界では、前者が圧倒的に多いです。

いわゆるステマ書籍で、インフルエンサーを多用することで売れている雰囲気を作り上げて、大量の人に買わせるのです。

自分が話題の書籍を読んでいるという事自体に価値を見出すタイプの人ならば話題の書籍を読むことに意義がありますが、専門職の皆さんはそういう価値のないことに興味を持っている人は少ないはずです。
話題の書籍で内容が素晴らしい書籍は極めて稀なので、お金と時間を無駄にしないようにするためにも、避けた方が無難だと思います。
どうしても読みたい場合は、どうせすぐ流行が終わりますから、数ヶ月後に在庫としてブックオフに並べられているものを買えば良いと思います。

専門家にとって本当に価値のある学べる書籍はあまり話題に上がりません。
専門家同士の間でひそかに広がっていくことが多いので、出版からだいぶ遅れてジワジワと売れるということが多いです。

おわりに

ということで、今日は論文や専門書をオススメする記事を書かせていただきました。

経営管理部門に勤めている皆様の多くは、すでに毎日のように論文を読んでいるだろうと思いますので、釈迦に説法になってしまったかもしれません。

また、理系出身の方々も「論文を読む」なんていう行為は呼吸と同じだと思います。
私の知る限りの優秀な皆さんは、皆論文をよく読んでいます。
一方でビジネス書はほぼ読んでいません。
彼らが読んでいるもののほとんど論文又は専門書で、その他のものでも文学(海外のものが多い)か科学雑誌などです。

以前、知人の経営者(工学研究科出身)のオフィスに行ったとき、机の上に英語の医学系論文が置いてありました。
事業的に全く関係ないジャンルだったので「なんで医学系の論文を読んでるんですか?」と聞いたら、「ちょっと気になって調べてたらその論文に行き着いたんだよね。趣味だよ」と返ってきました。
これが理想的な専門家の姿だと思います。

趣味で調べ始めたことについて、海外の論文にまで行き着く力と、読み解ける読解力が重要です。
若手のビジネスマンの皆様も、若いうちから論文を読む習慣を身に着けておくべきです。
それがきっと先々の自分の能力を底上げしてくれます。

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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。

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株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

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