記事FV
コラム
2024/10/30 更新

新卒でベンチャーに入るのはありか、なしかを解説

はじめに

今回は「新卒でベンチャー企業に就職するのはありなのかどうか」について考察してみようと思います。

「ベンチャーに行こうかなぁ」と悩んでくれている人もいると思うので、長年ベンチャーにいる私が書かせていただきます。
若手ビジネスマンの皆様の参考になれば幸いです。

結論

結論を先に申し上げますと、新卒でベンチャー企業に入るのは、極々一部の人についてのみありだと思います。

それ以外の人については、原則なしです。

以下、なぜそういう結論に至ったのかについて、理由を述べながら解説していきたいと思います。

なお、この記事の見解は著者個人の見解です。

理由1.急激な変化や成長を望む人は極僅か

一部の会社を除いて、ベンチャーは基本的に資金調達を必要としていて、ヒトもカネもモノも足りていない状態ですから、常に成長し続けないといけない環境です。
VCなどの投資家から多額の出資を受けている以上、急激に成長してIPOやM&Aを果たす必要があります。
それが一般的なベンチャーの宿命みたいなものです。

そうだとすると、会社と同じくらいの速度で中にいる人達も急激な成長が必要になってきます。
この成長を実現するためには、自分を常に変えていかないといけませんし、新しい知識を詰め込んでいかないといけません。

しかし、そのような急激な変化や成長を望む人は少数派です。

そして仮に成長を望んでいても、実際の変化についていける人は極僅かです。
新卒の場合はまだ右も左もわからない状態ですから、変化に対応できる人はさらに少ないでしょう。
そのため、多くのベンチャー企業では、調達したお金を中途採用コストのために使います。
転職市場のトップランカーにスカウトをかけて、現時点ですでに優秀なプレイヤーを採用するわけです。

最近では、新卒でそのままベンチャーに入り、急激に成長して役員クラスにまでのし上がっている若手も出てきていますが、それは全体で見ると極めて稀なケースです。
私が過去に見聞きしてきた事例で言えば、多くの新卒はベンチャーの変化スピードに対応できず、途中で疲れ果ててしまいます。
そしてそのまま大きな成長もなく、数年後には大手企業の一般社員と変わらない状態で勤務するようになります。
それなら最初から大手企業にいた方が良かったのではないかと思います。
大手企業の方が安定性、給料、福利厚生など様々な点でベンチャーを上回っているので。

ただし、ベンチャーにチャンスがないと言っているのではありません。
ベンチャーが運良く資金調達に成功したとしても、そんなに簡単に優秀なプレイヤーは採用できませんから、社内にはたくさんのポジションの空きがあります。
新卒で入った若手であっても、実力とやる気さえあればそのポジションを狙えます。
運良く任命されれば、同世代の平均年収の倍以上を稼ぐことも容易です。

しかし、それを実際に掴もうと行動する若手はほとんどいませんし、あまり見かけません。
そう考えると、ベンチャーで活躍できるような野心的な若手は、同世代全体で見ると極めて少数であるといえると思います。

逆にいえば、野心的な人は新卒でベンチャーに入るべきです。
実力さえ示せば、大手企業より遥かに早く出世できます。
場合によっては独立も視野に入るので、より大きな成功を志すことが出来ます。

理由2.制度が整っていない

ベンチャー企業では、重要な制度がほとんど存在しません。

誰かを採用するプロセスもまだ整っていないことが多いですし、入社後の流れも決まっていないことが多いです。
そのため、いきなりOJTまたは放置となります。

私が初めてベンチャーに入ったときは初日から放置でした。
自分が何をやったらいいのかもよくわからないまま、ろくに説明もされていないPCの設定を一生懸命して帰りました。
上司になるはずだった人は週に1~2回しか来ない社外の人(ほぼ業務委託の人)でしたし、来ても数時間で帰ります。
何か質問をしても「自分もわからないんですよ」という回答しか来ません。
上司としては全く役に立たなかったので、そこからはすべて自分で考え、整える必要がありました。
それが一般的なベンチャーの『普通』だと思います。

違う視点でみると、新卒のための立派な教育制度や社内研修が充実しているのであれば、その会社はすでにベンチャーとは呼べないくらいの規模になっています。

一般的なベンチャーは、入社日から即戦力で稼働できることが前提とされています。
ルールや制度なんて整えられていませんし、すべてこれから創るものです。
他社のケースを見ても、しっかりとしたOJTがある会社の方が少ないです。

そんなハードモードRPGをピカピカの新卒の頃からやりたい人はそう多くはないでしょう。
大手で手厚い研修を受けて、しっかりじっくり社会人経験を積んだ方が将来的にも良いと思います。
ゆえに、新卒でベンチャーはオススメしづらいです。

しかし、極々一部の若者については、そのハードモードを『楽しい』と感じる場合があります。
私はそういう学生が大好きです。
是非一緒に働きたいと思ってしまいます。
そういう人はベンチャーに行くべきですし、向いていると思います。

理由3.大手を見てからでも遅くない

2020年代に入ってから、新卒でベンチャーに行くという人も増えてきました。
ただこれはいわゆるメガベンチャーに行く人が増えたという話で、創業間もないスタートアップや未上場のベンチャーに行く人はかなり少数です。

また、ベンチャーに興味を持ってくれている方は増えたのですが、それでもまだ大多数の人は大手企業をまず受けて、大手企業のどこにも採用されなかった場合にベンチャーを検討するという方針を採用していることが多いです。

私はそれで良いと思っています。
なぜなら、大手コンサル・大手銀行・大手証券・大手IT・大手人材系などを経験した後でベンチャーに来ることは比較的容易だからです。
25~30歳で転職をすれば、比較的簡単にベンチャーに入ることができます。
活躍できるかは別の話ですが、入ること自体は容易だと思います。

一方で、ベンチャーから大手に転職するのはなかなか難しいです。
そもそもの価値観が大きく異なりますし、自由な文化から完璧な統制の文化へのダイブになるので、大手側からも若干敬遠されがちです。
そうだとすると、新卒のプラチナチケットを大手入社のために使った方が良いと考えるのが自然です。

入社難易度の高い大手を一度経験して、自分の実力を測り、ベンチャーでも確実に勝ち上がっていけるという自信をつけてから転職しても遅くないはずです。

それに、大手の方が福利厚生も整っていますし、安定した快適な生活を送れます。
私も大手にいた頃は驚かされることばかりでした。
一度でもあの温々の檻の中に入ったら、もうなかなか出られません。
どんな野心的な人でも、数年で牙がポロンと落ちます。
それもまた一つの幸せの形なのだろうと思います。

ベンチャーに来るのは、そういう温々した環境下でも牙を磨き上げられるタイプの人です。
いつまで経っても野心を捨てられず、挑戦し続けていないと落ち着かないという人は、ベンチャーに向いていると思います。

理由4.給与が安い

残念ながら、ベンチャーと大手との間には、超えられない所得の壁みたいなものがあります。
平均的に見て給与は安いですし、ボーナスも出ないところが多いです。
一部の例外を除いて、ベンチャーの方が安いと考えてください。
福利厚生も所得の一種と考えると、より格差は広がります。

新卒同士で比べると大した差はないのですが、30代、40代になったときに大きな差となってきます。
もちろん人によって年収差は変わりますが、平均額で200~500万くらい差が開くのではないかなと思います。

ベンチャーに来て所得面でメリット得る人は極一部だけで、若くして上層部まで駆け上がれた人だけだと思います。
自分が駆け上がれる側の人間なのかどうかをよく考えて、違うなと思うのであれば、大手に行くべきだと思います。

なお、ベンチャーで短期間に結果を出して、上級の役職がついた上でIPOまで経験した人については、その後の人生は大手の一般社員より遥かに良くなります。
自由度、資産、人脈、投資機会、転職機会などの点で優れた生活が送れるはずです。
そこを本気で狙うかどうかの話だと思うので、自分自身と深く対話してみてください。

理由5.生活費以外の目的が必要

上記のような様々な弱点を抱えているにも関わらず、なぜ私はベンチャーにいるのか。
それは、働いて生活費を稼ぐ以外の目的があるからです。
ベンチャーに行くなら、そういう目的意識が重要ではないかと思っています。

ちなみに私はベンチャーのことを「お金をもらって学べる学校」だと考えています。
在籍している間に学ぶことがないベンチャーでは働かないですし、働くべきではないと思います。
何かしらの分野の学習をしたいからわざわざリスクの高いベンチャーに来ているのです。

これは私だけの考えではなく、私の周りにいる、有名大学を卒業して大手からの内定ももらっていたのに、わざわざベンチャーに来ている奇特な人たちも同じ考えです。
生活費を稼ぐこと以外の目的をそれぞれ持っているのです。

例えばある人は「3年以内に起業をするので、起業の成功要素を学ぶためにはベンチャーが一番だと思った」と言っていますし、また別の人は「ベンチャーは働き方が自由でリモートワークも可能なので、働きながら株式投資で資産を増やすためにあえてベンチャーを選んでいます」と言っています。
また、最近知り合った新卒2年目の人は「僕は将来VCを立ち上げたいと思ってて、そのためにはベンチャーで働いてみた経験がないと投資先の選定が難しいと思ったので」と言っていました。
こういう例はたくさんあります。

ベンチャーにわざわざ来る若者たちには、生活費以外の目的があることが多いです。
そういう目的がないとベンチャーにいる意味がない気がするので、生活費以外の目的を持った人だけが目指すべきなのではと感じています。

おわりに

新卒でベンチャーに行くのはありかなしかという、今後もずっと賛否両論あるであろう論点について私見を述べさせていただきました。
様々な見解があり得る論点だと思うので、今大学生の皆さんは自分のキャリアの事をよく考えて、悔いのない選択をしてください。

応援しております。

【お問い合わせ】

WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。

内容に応じて担当者がお返事させていただきます。

転職相談はこちら

コラムの関連記事

プラットフォーム型ビジネスモデルとは

エージェンシー問題とは

効率的市場仮説とは

経営戦略理論・RBVとは

三新活動とは

ビジネスモデルとは

集団浅慮とリスキー・シフトとは

プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは

プロダクトライフサイクルの意味

ステークホルダーの意味や種類

沈黙の螺旋とは

PEST分析について

株式の制度やメリット

完全競争と不完全競争

M&Aの基礎知識

サーバントリーダーシップ理論とは

モラルハザードとは

経済学理論「逆選択」とは

情報の非対称性とは

組織心理学「PM理論」とは

パスゴール理論とは

心理学理論に基づくマネジメント

経営学の全体像

経営戦略の4つのレベル

経営戦略の4段階

高い業績を出す組織を作る方法

変革型リーダーシップ理論

カリスマ的リーダーの特徴

意思決定モデル4類型

組織内の「いじめ」対処法

科学的管理法と人間関係論

組織を崩壊させる「ゆでガエル理論」とは

ゲシュタルト心理学分野とは

権力の腐敗とは

組織内で起こる「同調現象」とは

マネジメントにおける「観客効果」とは

「自己検閲」と「マインドガード」

「集団極性化」とは

「傍観者効果」の危険性

「組織コミットメント」とは

モチベーションに影響を与える「心理的契約」

早期離職の心理学

早期離職を防ぐ可能性のあるRJP理論

サボる人間の心理学

職務特性理論とは

心理学に基づくストレス対処法

人事評価で気をつけたい認知バイアス

マネジメント理論「XY理論」とは

人材採用で気をつけたい「ハロー効果」

組織開発でも使える単純接触効果

ビジネスでも重要な恋愛心理学

ビジネスでも使える認知的不協和理論

ダニングクルーガー効果とは

極限の集中状態に入る条件

内発的動機づけの意味

「マジカルナンバー」とは

人事や採用担当が学ぶべき心理学

ベンチャー監査役の業務内容

ベンチャー内部監査で活かせる資格

ベンチャー総務の業務内容

ベンチャー人事の業務内容

ベンチャー労務に活かせる資格

ベンチャー法務に求められる能力

ベンチャーPR/IRの業務内容

ベンチャーの経営企画で活かせる資格

ベンチャー財務部の業務内容

ベンチャー経理経験の価値が高い理由

経営管理部門の採用の難しさ

応募が集まる求人票とは

職務経歴書の書き方とは

人材紹介という仕事に対する向き合い方

情シスのリモートについて

情シスで求められる志向性

年収から見た情シス市場の変化

ベンチャーにおけるCxOの役割

ベンチャー企業の基本類型

求人数から見た情シス市場の変化

M&A全体の流れ

5F分析とは

スタンドアローン問題

サンクコスト効果(コンコルドの誤謬)

SWOT分析とは

M&A契約の重要条項(前編)

M&A契約の重要条項(後編)

3C分析とは

ストックオプションとは

クラウンジュエル・ホワイトナイトとは

MBOとは

著者画像

株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

満足度98%のキャリアコンサル

無料カウンセリングはこちら